「体感して」 画家・坂井淑恵さん
不思議な、 なぜか心引かれる絵と出合った。 今、 県立近代美術館で展示されている坂井淑恵さん(46) =和歌山市六十谷=の油彩画。 十数年前から全国的に注目されている画家だが、 同館で紹介されるのは今回が初めてになる。 坂井さんと、 同館の奥村泰彦教育普及課長 (48) に話を伺った。
展示されている作品は、画家としてデビューした平成7年の「中の人」と、同9年の「漏れた人」。
15年前、京都の画廊で初めて作品を見た奥村さんは、「それまで見たことのない絵だった。絵画でこんな世界が表現できるのか、描いてあるものはシンプルなのに、こういう描き方でこんな内容のある作品は見たことがなかった。今でもそうです」と話す。
柔らかい色合いのふわっとした雰囲気の画面には、ぼんやりした輪郭の人物(またはその一部)が描かれる。小さな目もある。「漏れた人」の頭の上からはもう一つ、さらにぼんやりした頭が抜け出したかのように浮かぶ。
絵の具は盛り上がり、はっきりした筆のタッチも見えるが、背景にはいろんな色が隠れて優しく溶け合い、曖昧な境界らしきものも。これは水? 空?草原?
「人の気配とか雰囲気とか、気分とかを描きたい」と坂井さん。 境界については「違う次元に半分入ったような感じ。体の中と外とか、水に漬かった体の部分と出ている部分の違い、体と頭の中の違いとかが気になって」とほほ笑む。
「人がどういう状況にいるのか、そぎ落としていった時、残ったのが身体感覚でした」とも。人物が消えたこともあるが、ずっと描いているものは同じだという。
実は坂井さん、「千葉県出身」との情報が定着している。両親が海南から千葉県に転勤したためだが、生まれたのは和歌山だ。10歳の時に和歌山市に戻り、県立向陽高校を卒業。京都芸術短期大学、京都市立芸術大学、同大学院で油絵を専攻した。
全国で個展やグループ展を開き、平成12年に「VOCA展」奨励賞を受賞。徳島県立近代美術館などに作品が収蔵されている。
坂井さんは、「絵の前に立って、ふわーっと伝わってくるものを体感していただけたらうれしい」と話している。
作品が紹介されているのは和歌山市吹上の近代美術館で5月27日まで開催の「コレクション展2012―春」。問い合わせは同館 (℡073・436・8690)。