37年の歴史で初の子方 26日「日前宮薪能」
26日に和歌山市秋月の日前宮(紀俊武宮司)で開かれる第37回 「日前宮薪能」 に、 和大付属小学校6年生の宮楠昂之(たかゆき)君(11)=同市川辺=が子方(こかた=子役)で出演する。 37年の歴史で子方が出るのは初めて。 伝統の舞台に宮楠君は、 「ちゃんと覚えて頑張らなあかん」 と笑顔で話し、 真剣な面持ちでけいこに励んでいる。
宮楠君が仕舞や謡いと出合ったのは5年前。 NPO法人和歌の浦万葉薪能の会が主催する能ワークショップでだった。 以来毎年同イベントを楽しみ、 2年前からは同市の観世流能楽師小林慶三さん(80)=重要無形文化財保持者=に習い始めた。
小林さんが 「日前宮薪能に子方で出ないか」 と宮楠君に聞いたのは昨年11月。 宮楠君はすぐに 「出たい」 と返事したという。 演目は 「百万」。 別れた子会いたさに気が狂った女性を、 自分の母親かもしれないと見ている子どもの役だ。
同じ役を自分も子どもの頃に、 鷺の森の能舞台 (戦災で焼失) で演じた小林さんは、 自分が不安に思った謡い出しなどを丁寧に指導。「 (宮楠君は)しっかりしている。 ただ30分ほど舞台でじっと座っていないといけないから、 それだけが心配」 とほほ笑む。
実は小林さんは、 今まで1年おきに同薪能のシテ(主役)を務めてきたが、 今回は若手の分林道治(わけばやし・みちはる)さん=重要無形文化財保持者=にシテを譲り、 仕舞を舞う。 「世代交代ですが、 後進の指導や能を広める活動に一層力を入れたい」 と話す。
宮司に代わって昨年から同薪能の神事を務める紀俊崇(きい・としたか)禰宜(ねぎ)は、 「偶然にも一つの時代の節目を迎え、 私たち若い世代にバトンが渡されました。 日本の文化、 伝統芸能の素晴らしさを次の代に伝えるとともに、 子どもたちが明るい未来を展望できるような社会づくりに貢献していきたい」 としている。
日前宮薪能は午後6時半開演。 演目は小林さんによる観世流仕舞 「高砂」 と、 茂山千三郎さんによる大蔵流狂言 「茶壺 (ちゃつぼ)」、 観世流能 「百万」。