夏目漱石の戦争観、恋愛観 研究者ら意見交換

 夏目漱石の小説『趣味の遺伝』をめぐる「漱石と和歌山シンポジウム」が18日、和歌山市の和歌山ビッグ愛で開かれた。「和歌山漱石の会」が主催。同会の広岡茂久さん(83)と梶川哲司さん(60)、同会主宰で天満天神繁昌亭支配人の恩田雅和さん(62)が、漱石の日露戦争観や恋愛観、なぜ主人公が江戸詰めの紀州藩士の末裔(まつえい)なのかなどについて発表し、約40人の聴衆と意見交換した。

 同作品は明治38年(1905)12月執筆とされる漱石初期の小品で、「趣味」は「恋愛」を指す。日露戦争の戦勝パレードを主人公が見物するところから始まり、戦死した友人をめぐる恋愛の不思議が展開する。

 広岡さんは「漱石はこの小説で戦争の悲惨さを強調し、日露戦争を起こした政府やこれをあおったマスコミを批判した。恋愛遺伝説は政府・官憲の圧力を避けるためのカムフラージュではないか」と話し、戦争批判は『夢十夜』や『それから』などにもあることを紹介した。

 梶川さんは、小説『行人』に出てくる「紀州様」などの言葉と、元・紀州藩江戸中屋敷だった赤坂庭園などを挙げ、「漱石の和歌山への関心は、東京における紀州藩の存在の大きさのため」とした。

 恩田さんは、ロンドン留学時代、漱石が浜口担(たん、浜口梧陵の子)を通して親しくしていた「紀州グループ」と、江戸時代の三角関係事件が小説に影響していると推測。

 さらに、「一目ぼれの恋煩いを扱った落語『崇徳院』に似ている。漱石は子どもの頃から寄席に出入りしていた。この落語を聞いていた可能性はある」と話した。