医大/耳鳴りの脳領域を特定 治療、原因解明に糸口
原因が解明されていない重症の「耳鳴り」について、聴覚とは直接関係がない脳内領域と症状に関連性があることを、県立医科大学の共同研究チームが突き止めた。耳鳴りの強さと不快感に関連する領域はそれぞれ別であることも分かり、原因の特定や効果的な治療法の確立につながることが期待されている。
共同研究は、医大の解剖学第一、生理学第一、精神神経科学、耳鼻咽喉科学の各講座と和歌山南放射線科クリニックによるもの。7月29日、医大の上山敬司准教授、金桶吉起教授、篠崎和弘教授、山中昇教授の4人が概要を発表した。
発表によると、人口の300人に1人がひどい耳鳴りに悩まされ、精神疾患や自殺に追い込まれる場合もある。原因不明で根本的な治療方法がなく、一人で悩んでいる人が多い現状となっている。
共同研究は平成23年5月に正式スタート。24人の患者を対象に、脳の全部位について他の部位とのネットワーク、つながり具合を、MRIを用いた独自開発の手法で解析した。
その結果、耳鳴りが強い患者は、脳の中心付近にあり感覚情報を処理する「尾状核」や「海馬」のつながりが多く、不快感が大きい患者は、感情を制御する「内側前頭葉下部」のつながりが多いことが分かった。
いずれも聴覚を直接つかさどる領域ではなく、「耳鳴りの音は、神経回路の異常により脳内で作られている」との研究チームの仮説に添う結果となった。
また、耳鳴りの強さと不快感の関連領域が別だということは、患者が訴える耳鳴りの強さと不快感の大きさは一致しないという臨床経験とも合致する。耳鳴りは治せなくても、不快感は除ける可能性も見えてきた。
重症患者の治療では従来、抗うつ剤などの処方で症状が改善する場合があることが知られ、脳に対する電気・磁気刺激療法なども試みられてきた。今回、関連領域が絞り込まれたことは、効果的な治療法の確立や原因特定への糸口になり、さらなる研究の進展が期待される。