表情多彩、200の「民間仮面」 7日から展示会

 ほほ笑みをたたえた翁(おきな)や迫力の鬼面、愛嬌(あいきょう)ある表情の仮面たち――。和歌山市出身で、大阪府高石市に住む乾武俊さん(92)が収集した日本や世界の「民間仮面」223面が、県立博物館(和歌山市吹上)に寄贈される運びとなった。寄贈を前に、7日から同館の企画展でうち約200点が一堂に展示される。乾さんは「仮面は特別なものでなく、文化の原点。和歌山が『文化』の発信地となるよう期待します」と話している。

 乾さんは教育者で詩人、劇作家としても知られ、民間仮面や被差別部落地域の民俗文化の研究者でもある。

 「民間仮面」とは、信仰や芸能の場で使われてきた素朴な面。同館によると、民衆の心象や深層が刻まれた魅力的な対象であるにもかかわらず、日本では学術的に顧みられることなく、貴重な仮面の多くが廃棄されたり、海外への流出で資料の散逸や喪失を招いている現状があるという。

 乾さんは同市に生まれ、東京高等師範学校に入学。終戦後、市立西和中学校や伏虎中学校で教壇に立った。大阪に転居し、大阪府教育委員会指導主事、和泉市教育次長、大阪教育大学非常勤講師などを務めた。

 1970年代後半から本格的に仮面の収集を開始。まとまったかたちでの保管・活用を願い、いくつかの候補の中から、乾さんがかつて学んだ小学校跡にある同館を寄贈先に決めた。

 寄贈されるのは、およそ中世から近世までの面。多くは木製で、日本や韓国、インドネシア、ネパール、ナイジェリアやコートジボワールなど、国もさまざま。

 民間仮面は制作時期が分からないものが多い中、享禄3年(1530)と、面の裏にはっきりと記された仮面「若い女」など、極めて貴重な資料も含まれている。

 同館の大河内智之主査学芸員は「洗練されたというよりも、プリミティブ(根源的)で民衆の本質に迫るような表現。日本と世界の仮面の歴史を考える上で学術的な価値も高く、和歌山から世界を見る、一つの『窓』になれば」と話している。

 企画展「仮面の諸相~乾武俊氏の収集資料から」は来年1月19日まで。県内で過去最大規模の展示になる。

 入館料は一般280円、大学生170円。午前9時半から午後5時。スポット展示「和歌祭・面掛行列の仮面」も同時開催。問い合わせは同館(℡073・436・8670)。

 14、15日には講演会 乾さんを講師に迎えた講演会「仮面のおとづれ―その群行のダイナミズム」が14、15の両日、県立近代美術館2階ホールで開かれる。14日は午後2時から、15日は午前10時から。
 また、学芸員による展示解説「ミュージアムトーク」は、7日、21日、1月4日、18日のいずれも午後1時半から。