今後の参院のあり方問われる 有権者との距離感か、新しい考え方か
最高裁判決において平成20年の参議院選挙制度が違憲状態だ、という判断が下されたことにより一気に議論に火がついたこの問題。
一票の格差は人口に比例すべきだと明確に示したわけではないが、これまで5倍以上の格差があっても合憲としてきた裁判所がなぜ衆議院並みの比例原則を旨とせよとなってきたかは殆どの国民は知らない。当然である。裁判所が明確にしていないからである。
唯一それらしい記述があるのは、参議院があの郵政選挙で衆議院の議決を否決した。そして選挙になった。だから参議院は強い。衆議院と同じ機能を持つに至った。よって一票の格差は衆議院と同じぐらい縮めよ、というのである。
えー本当にそうなの?である。参議院の機能が衆議院並みになったって? 今でも総理大臣の指名権や予算、条約の優越があるし、今はやりの60日ルールもある。総理はもちろん、閣僚として出ている議員の数は圧倒的に衆議院が優越している。
百歩譲って参議院が強いとしても、なぜそれが衆議院並みの比例原則を要求するものなのか。判決の中で都道府県の区割りさえ見直すことも視野にいれよといっているが、結論はどうすべきなのか。第一回の参議院議員選挙が格差2・6倍でスタートした歴史的事実を踏まえて、最高裁は果たして何倍以内ならいいと考えているのか。すべてに明確なこたえは、判決からはない。
いうまでもなく、現行参議院地方区の選挙は都道府県単位である。そこには面積や有権者への交通アクセスの利便性などが考慮されてきたからであるのみならず、歴史的、文化的、行政的一体感のなかで日本の政治文化が育まれてきたという事実がある。
これを大きく変えよう、というのだから裁判所もそれなりの覚悟をもって判決したのだろうと思いたい。
だからこそもっと緻密な判決文でなくてはならないはずなのだが。
このことは詭弁でもなんでもなく、現に世界の国々のなかにはアメリカ連邦議会は66倍もの差があるし、ドイツ連邦議会が地域代表としての第二院を明確に規定している。
日本ではそもそも参議院は全国民の代表であると憲法で規定されているので都道府県単位の選挙は関係ないのだという反論する人もあろう。しかし現実には同じく全国民の代表である衆議院議員を見てもわかるように、地元の諸々の陳情は殆どが選挙区の有権者を通じて行われるのであり、この議論は有権者の実態や国民感情を無視している。憲法がこう書いているから、という理由だけで導き出される結論が国民感情や実態に即していないなら、憲法規定を改正するか、政治が憲法解釈を通じて徹底的に実態に即したものにしていかなければならない。
自衛隊は憲法9条違反だ、とは大学の憲法の講義では皆習うところだが、だからと言って自衛隊を廃止すべきという議論にはなっていない。
いずれにせよ、選挙区の区割りを都道府県単位を超えるものにする合区という制度を作った以上、今後の参議院のあり方が問われることになる。衆議院並みの選挙区に根ざした有権者との距離感で参議院を考えるか、全く新しい考え方を持って考えるか。
私は政審会長としてこのことを看過できないと考え、党内にあり方の検討会をつくり、10回近くの議論を重ねてもらった。
そのなかで参議院が衆議院との関係で果たしうる役割と現状の乖離はなにか、またその乖離を埋めるためにはなにをすれば良いかを考えてきた。一定の考え方がまとまったので先日、議長のもとにあり方の検討会設置のための申し入れをしてきたところである。
これからは与野党合わせての議論が進むことになる。
参議院の英訳が現行のHOUSE OF COUNCILORSではなくSENATORに、という議論が国民のみなさんの目に触れることが出てきたら、それはこの時の議論が出発点だったと理解していただきたい。