ニコンサロン奨励賞受賞 森田さん写真展
㈱ニコンが開設する写真ギャラリー・ニコンサロンの写真展「Juna(ユーナ)21」で、和歌山市出身の写真家・森田剛史(たけし)さん(26)の写真展「続 きのくに」が三木淳賞奨励賞を受賞した。紀の川流域を祖父母と共に旅し、風土に育まれてきた人の記憶や感情を表現。森田さんは「まだ未完成との思いもあり、次の新たな展開につなげたい。写真を見た方が、自分の家族を撮りたいと思ってもらえればうれしいです」と話している。12日から18日まで、大阪市北区梅田のニコンサロンbis大阪で受賞作品展が開かれる。
「Juna21」は35歳以下の若手写真家を対象にした写真展で、同賞は新宿ニコンサロンで一年間に開かれた24の写真展から優れた作品を選考。奨励賞は最優秀に次ぐ優秀作品に位置付けられる。
森田さんは県立和歌山高校を経て、東京ビジュアルアーツ写真学科を卒業。平成26年同展で入賞するなどし、現在は東京を拠点にフリーカメラマンとして活動している。
受賞作は平成26年に開いた写真展「キノクニ」の続編。「祖父の肖像と祖父の選んだ土地を写し、和歌山という土地をつないでいく」というコンセプトのもと、森田さんと、紀の川市に住む祖父の岡野茂さん(89)、祖母の明美さん(79)の3人で旅に出掛け、撮影者、被写体、アシスタントというゆるやかな役割を果たしながら撮影したもの。カラー26点が昨年6月28日から7月4日まで、新宿ニコンサロンで展示された。
高野山近くの紀の川上流から下流へ向かって車を走らせ、茂さんが良いと思った場所で、森田さんが撮影。茂さんのポートレートが主で、何気ない風景の中にたたずむ茂さんの姿や、自然風景が写し込まれ「風土に育まれてきた人々の記憶と、土地が持つ言葉にしがたい感情を写しとめようとする。3人の関係も旅の中で変化を遂げ、日常の現実の中では味わえない、いとおしい瞬間が土地のイメージにも刻まれてゆく」と高く評価された。
撮影旅のきっかけは、森田さんが高校3年生の時に、母親を病気で亡くしたこと。母との懐かしい場所を巡りながら互いの思い出を持ち寄ろうと、平成23年から3人で出掛けるように。森田さんは、それまでほとんどカメラを向けることのなかった家族を撮影するうち「写真は感傷的なものを超えるのでは」との思いにかられ、祖父の生い立ちを知りたいという気持ちに変化していったという。そして「撮影で何よりうれしいのは、迎えに行くと、じいちゃんがきちんとスーツを着てタバコを持って待っていてくれること」と振り返る。
あまり会話が得意ではないという森田さんは、写真を通じて、新しい言葉を覚えたような感覚だという。記念展には「紀の川沿いの風景に、地元の人ならではの楽しみ方もあると思います。写真を撮る行為が持つ強さを感じてもらえたら」とメッセージ。「これからも、家族写真や肖像をテーマに撮り続けていきたい」と話している。