VR活用の津波想定訓練 紀勢線で導入へ
JR西日本㈱とKDDI㈱は15日、VR(仮想現実)を用いた鉄道運転士の津波想定訓練を、4月からJR紀勢線の一部区間で導入すると発表した。全国初の試みで、海に面した区間が長い同線の安全向上が期待される。
JR和歌山駅と新宮駅を結ぶ同線の県内区間は約200㌔。南海トラフ巨大地震に伴う津波で全線の約3分の1にあたる約73㌔の区間が津波で浸水し、海沿いを走ることが多い白浜~新宮間は、地震発生から5分以内に10㍍を超える津波が襲うと予測されている。
JR西日本和歌山支社では、これまでも列車内への避難はしごの設置や「紀勢本線津波浸水地図」の策定など、さまざまな津波対策を進めてきたが、さらに運転士の判断力向上を図ろうと、昨年からKDDIとVR機器の導入に向け検討を続けてきた。
導入されるVRは、台湾の携帯情報端末メーカーとアメリカのコンピューターゲーム制作会社が共同で開発した「HTC Vive」。両社が紀勢線での訓練で使用できるように開発した。
運転士の位置から360度を見ることができ、リアルな走行感を感じられる他、画面に走行地点の標高や津波発生時に想定される津波の高さなどが表示される。津波が沿線に押し寄せる様子がCGで再現されることにより、津波の脅威を認識できる他、JR西日本が平成25年に開発した「津波避難アプリ」をVRの画面上に表示することで、停止地点から最寄りの出口や避難場所を確認することができる。
同社和歌山支社によると、4月から同支社の新宮列車区と紀伊田辺運転区に各1セットずつ導入し、新宮~串本間を走る列車に乗務する運転士約70人を対象に年2回程度、訓練を行う予定という。
15日に和歌山市吉田の同支社総合庁舎で開かれた記者発表で、同支社安全推進室の堺伸二室長代理は「災害時は究極の判断を迫られる。VRを活用した訓練により、心理的に落ち着いて対応できるのではないか」と最先端の技術を活用した訓練に期待を寄せ、KDDI㈱ビジネスIoT企画部の原田圭悟部長は「鉄道会社に対するアンケートを通じて、現場に即した訓練が重要だと感じた。冷静に適切な判断をする力が養われると期待している」と話した。