羽ばたく感動を芸術に 写真家・西山さん
漆黒に、鮮明に浮かび上がる美しいまちなみ――。一度目にしたら忘れられない、誰も見たことのないような芸術的な世界をカメラに写し撮るのは、紀の川市の写真家・西山武志さん(39)。特にこの数年、力試しにと応募したコンテストで立て続けに高い評価を受けている。「写真は心の表現。見た方に何かを感じてもらい、コミュニケーションができるようなものでありたい」と、写真を通じた結び付きを大切に、日々被写体に向き合っている。
写真館を経営する父や母の影響もあり、写真を始めるのはごく自然なことだった。大阪芸術大学写真学科を卒業し、同大学院の修士課程を修了。同大学院で研究員も務めた。上野彦馬賞、フジフォトサロン新人賞、キヤノン・デジタル・クリエーターズ・コンテストグランプリなど、多数の華やかな受賞歴を持つ。
セスナ機に乗り、和歌山や大阪、京都などを上空から撮影した航空写真「AIR」を発表し、多くの人を驚かせたのは約4年前。斬新な「鳥の目」の視点で捉えた一連の作品は、大きな反響を呼んだ。
きっかけは、飛行機から見た高野山周辺にかかる雲海や、空からの視点に感動したこと。それまではよく高層ビルからの景色を撮っていたが「本人が羽ばたかないと、この感動は伝え切れない」と決意。構想に3年を費やし、芸術文化の振興に取り組む銀聲舎の松尾寛さんと共に実現させたプロジェクトだった。
実は高い所が苦手。芸術家として未開拓分野に挑戦する探究心が勝り、ファインダーをのぞくと不思議と怖さは忘れているという。
「ただ記録するだけでなく、芸術性を持たせたい」――。上空約300㍍で、光やアングルを考えながらタイミングを計り、美しい一瞬を切り撮った。中でも、夕日に照らされ黄金色に輝く有田市のミカン畑には「最高にかっこいいと思った」と振り返る。和歌浦の御手洗池公園を写した一枚は、地元の人が気に入り「ふるさとの姿を、子や孫の世代に伝えたい」と買い求めてくれ、大きな喜びだったという。
さまざまな芸術表現の中でも、ストレートに心の表現ができ、人と人との心の懸け橋になるのが写真だと信じている。目標にするのは、子どもからお年寄りまで「誰が見ても美しい写真」という。
琵琶湖に浮かぶ白髭神社を写した神秘的な「INISHIE」は、日本の風景をテーマにした住友不動産販売のフォトコンテストで、応募総数約3万9900点の中から、プロフェッショナル部門でグランプリに輝いた。また、エプソンフォトグランプリで「竹生島」が入選。ことしの春には、JPS(日本写真家協会)展で、3枚組「Air」が優秀賞に選ばれている。
西山さんは「AIRは、自分の中のごく一部。地上にも、いいものはたくさんあるし、これからも技術を磨きながら、美しいものを表現していきたい」と今後への思いを語る。
現在はプロとして写真を発表しながら、紀の川市のスタジオ「西山フォト」で撮影に携わる。
「赤ちゃんの撮影から芸術作品まで。ジャンルにとらわれずに撮りたい。例えば、自然な写真だけど一生の宝物になる、そんな一枚を記念に残せたら最高だと思うんです」
何万枚もの中から選ばれた写真も、日常の温かい家族の記念写真も、西山さんにとっては同じぐらい価値ある一枚だ。