金属工芸の道へ 新人はさみ職人の生馬さん
和歌山県和歌山市の生馬(いこま)千加さん(20)は、金属工芸を専門に学び、今月からはさみ職人として市内の製造メーカーでスタートを切った。美しい光沢を放つ金属でのものづくりに魅せられ、専修学校の卒業制作はイタリアの博物館への出品作に選ばれたほどの創意と技術の持ち主。新たな挑戦への思いを聞いた。
生馬さんは京都伝統工芸大学校(京都府南丹市)金属工芸専攻で2年間学び、卒業制作で取り組んだのは、金属を素地にした七宝焼きの香合「毬(まり)の中」。手毬をイメージした球状の香合には、青の濃淡で表現した大きな菊花の中心に黄色い花が描かれている。
銅板を半球状に成型し、リボン状の銀線で花の模様を描いて窯で焼くことで付着させ、さらに釉薬を注入して焼き付ける作業を繰り返した。「ピカピカにしたくて」仕上げの研磨には特に丹念に取り組んだ。砥石(といし)や紙やすり、墨などを使って数日間、午前8時から午後8時までの在校中の時間のほとんどを磨きに費やした。
構想段階から思い悩みながら、学生生活の集大成として完成させた「毬の中」は、イタリア・ミラノ郊外のリッソーネ博物館で開催された国際的な展示会「アルティジャナルテ展」への出品作30点の中に選ばれた。
好きなことに向き合うと時間を忘れるほど熱中するという生馬さん。幼い頃は小物を小さな石などで装飾する「手作りデコ」や、ぬいぐるみ作りなどの手芸に夢中になった。絵を描くことも好きで、クレヨンと絵の具で描いた和歌山城と殿様の作品が、通っていた幼稚園のポスターに採用されたこともある。
将来はものづくりの仕事に就きたいとはっきり自覚するようになり、同校への進学を決意。課題の真鍮(しんちゅう)のキーホルダーを制作した際、「金属に光沢が出てきれいになっていく過程にウワァーと感激した」ことから、金属工芸に心を定めた。
住み慣れた和歌山での就職を希望し、「金属工芸・仕事」などのキーワードで企業を探していたところ、見つけたのが和歌山市内のはさみ製造メーカー。工場を見学した際、規格外品のはさみの持ち手を、ベテラン職人がハート型に直して愛用している姿を目にし、「心からものづくりが好きなんだな」と思い、入社の思いを強くした。
「仕事となれば製造上のミスをしないように緊張もしますが、好きなことに没頭する私は、職人に向いているだろうと思います」と話す生馬さん。先輩職人たちの中で技を磨き、満足できる製品づくりを目指して、意欲に燃えている。