笑いの力で詐欺防止 アマ落語の小笠原さん

「お母ちゃんか? オレやオレや」「私は砂山の大富豪のマダムやで」――。コロコロと変わる表情や声色で、会場は笑いに包まれる。アマチュア福音落語家として活動する、「ゴスペル亭パウロ」こと小笠原浩一さん(56)=和歌山県和歌山市湊=は、後を絶たない振り込め詐欺をはじめとした高齢者の被害の未然防止を図ろうと、特殊詐欺防止をテーマに創作した噺(はなし)や落語を各地で披露。親しみやすさが好評を得ている。

同市で行われた砂山婦人会の総会。約40人を前に、小笠原さんはオレオレ詐欺と還付金詐欺を題材に、犯人と被害者のやりとりを面白おかしく演じ、「『振り込んで』や『レターパックで送る』は詐欺。注意して」と訴えた。

アマチュア落語家としての活動は6年目に入った。きっかけは、近所であった落語家の桂文華さんの独演会に出掛けたこと。一人で何役も演じ分け、そこに情景があるかのように生き生きと語られる落語の魅力に感動。大阪の天満天神繁昌亭に通い、50歳の時、市が主催する桂枝曾丸さんのワークショップを受講。落語の基礎を身に付けた。

約30年間勤めたわかやま市民生活協同組合を、定年を前に2016年に退職。現在は幼稚園のバスの運転手をしながら、全国各地で落語を披露する。

関西を中心に、昨年1年間で全国24カ所で公演。クリスチャンで、古典落語と、聖書の教えを分かりやすく伝える「福音落語」が主だが、防災士の資格を持ち、最近は防災や特殊詐欺防止を題材にしたネタを披露するようになった。

県警によると昨年の県内の特殊詐欺の認知件数は95件、被害総額は約2億1470万円。小笠原さんは被害に遭った高齢者に直接話を聞いたこともあり、人ごとには思えなかった。「説明を1時間聞くのは大変。でも、笑いの持つ力を借りれば自然に手口や対策を知ってもらえるのでは」――。県警から犯人の手口や高齢者がだまされるポイントを聞いて落語に仕立てた。

創作にあたっては、いかに身近な問題として捉えてもらえるかに心を砕く。時には地域にある温泉施設やうどん屋など、地元ネタもたっぷり盛り込まれ、和歌山の有名和菓子店のまんじゅうも登場。具体的な手口を説明し「電話に出るときは名乗らない」「家族で合言葉を決めておく」などの対策を紹介する。

「落語を聴いた本人が被害に遭わないのはもちろん、被害に遭いそうな人を止めてくれることにもつながればうれしい」と願い、今後は薬物やアルコール依存などの社会問題も取り上げたいという。

「社会的に弱い立場の人や迷った人たちを、少しでもいい方向へ導くのが私の役割だと思っています。良い方に考える性格なので『しんどいことがあっても、笑い飛ばそう』という感じ」と笑う。

人情噺の演目が好きという小笠原さんは、ほろりとする内容を盛り込むことも忘れない。この日の2作目は、オレオレ詐欺の犯人が人の温かさにふれて改心し、新たな道を歩み出すというあらすじ。世の中、いやなことや絶望的なことばかりでなく、その先には必ず良い未来が開ける。そう信じて、きょうも笑顔で高座に上がる。

表情豊かに落語を披露する小笠原さん

表情豊かに落語を披露する小笠原さん