鏡面裏に名工のサイン みさと天文台望遠鏡
和歌山県紀美野町立みさと天文台(同町松ヶ峯、山内千里台長)に設置され、補修工事が行われている県内最大の天体望遠鏡が、7月1日から再び一般に使用できるようになる。6月4日には、改めてメッキを施した超高精度の反射鏡が再搬入され、製作を手掛けた名工・苗村敬夫(なむら・たかお)さん(80)=滋賀県=が鏡の裏に記したサインが初めて公開された。
同天文台の望遠鏡は口径105㌢で、1995年のオープン当時は公開望遠鏡として日本一の口径を誇った。経年による傷みを補修するため、天文台のドームから望遠鏡を取り外し、5月から分解、再メッキ、調整などの大掛かりな作業が行われている。
直径105㌢、重さ約200㌔の主鏡は、「現代の名工」の表彰を受け、黄綬褒章を受章している苗村さんが約1年をかけて製作。苗村さんは手磨き反射鏡の技術で世界的に知られ、光を的確に集め、より鮮やかな像を結ぶため、鏡の放物面の誤差を通常の望遠鏡の5倍以上の精度である10万分の1㍉に仕上げた。同天文台によると、同じものを作ることは二度とできない、文化財ともいえる逸品だという。
鏡面裏のサインは、反射鏡の取り付けが終わると見えなくなるため、今回の特別公開となった。タカオ・ナムラ・ミラーの頭文字「TNM」と、苗村さんが手掛けた製品の通し番号「864」が記され、さらに、鏡面から焦点の距離を示す3063㍉、製作年代の1995年、苗村敬夫の署名が鋭利な器具で刻まれている。通し番号は本当は「846」が正しく、山内台長(44)は「苗村さんは夢に見るほど反射鏡の製作に精力を傾けたそうです。番号の間違いは完成させた疲れからでしょうか」と、苗村さんの並々ならない製作への情熱を想像する。
搬入作業では、宮城県の専門業者でアルミメッキが施され、新品同様の輝きを取り戻した反射鏡が、木箱に入れられた状態でクレーンで運び入れられた。7月1日の再公開に向け、星の観察を行いながら調整が行われる。山内台長は「修理により、星の光と闇のコントラストをよりはっきり観察できると思います」と話している。
作業を見学に訪れたみさと天文台友の会会員の湯川純至さん(55)は「素晴らしい鏡の裏側が見られる貴重な機会を逃すまいと、駆け付けけました」と興奮した様子だった。