家康紀行(71)50年前に誕生「手羽先唐揚げ」

 前号では、名古屋の朝に欠かせない存在である小倉トーストを取り上げた。今週は、持ち帰りができ、人気が高い名古屋めしの一つ、手羽先唐揚げを紹介したい。
 名古屋の居酒屋料理の定番として提供される手羽先唐揚げは何といってもスパイシーな味わいが特徴。衣をつけず、下味をつけた肉を素揚げする。そこに甘辛で濃い口のタレを塗り、塩やコショウ、白ゴマを振りかける。中はふんわり、外はパリパリとした食感と濃厚なスパイスが絶妙で、お酒が進む。
 手羽先唐揚げは意外と歴史が浅く、今から50年ほど前に誕生。だしをとる程度でしか利用価値がなかった手羽先であったが、名古屋市内で飲食店を営む店主が活用法を考えた。その店では鶏の半身を丸ごと唐揚げにしたターザン焼きという料理を提供していたことから、それに使用していた秘伝のタレを手羽先唐揚げにかけ、客に提供したところ好評となり、メニューとして定着したという。
 一説には、当時は高価であったターザン焼きに手を出せない客を受け入れようと手軽なメニューを考案した。あるいは、鶏肉が品切れしたため苦肉の策で生まれたなど諸説あるが、身近にある食材を創意工夫し商品化することが得意な名古屋ならではの料理といえるだろう。
 昨今、和歌山では梅酢エキスを混ぜた餌で育てた「紀州うめどり」を見掛けることが多くなった。かねて夏場に弱った鶏に梅酢を飲ませ、健康維持に欠かせないクエン酸やアミノ酸を補給することで、食味・風味に優れた鶏に育てる風習があった。2006年に大阪で開かれたコンテストでは、食味・風味、見た目で全国1位を獲得。暑さに負けない紀州ならではの地鶏を使った名物料理の出現を期待したい。
   (次田尚弘/名古屋市)