人それぞれの魅力 義足のダンサー大前さん
交通事故で左膝から下を失いながらプロダンサーとして活躍し、リオデジャネイロ・パラリンピック閉会式の東京への引き継ぎ式でパフォーマンスを披露した大前光市さん(38)が19日、和歌山県和歌山市内のホテルでトークショーとダンスライブを行った。失った左脚は欠点ではなく個性だと受け入れる大前さんは、全身を使い息をのむような美しくダイナミックなダンスで魅了。「何かができなくなっても、人それぞれの形、人生の魅力だと大切にしてほしい」とメッセージを送った。
障害者の就労支援を行う一般社団法人七色社(同市九番丁)が主催し、2回の公演に約170人が来場した。
大前さんは岐阜県出身。大阪芸術大学でクラシックバレエを学び、卒業後、24歳の時、交通事故で左膝下を失ってしまう。それは憧れの劇団の最終オーディションの直前だった。その後も大好きなダンスを諦めず、演じる役に合わせて、長さや形状の違う義足を使い分け踊り続けてきた。昨年末のNHK紅白歌合戦で、平井堅さんとの共演でも注目を浴びた。
ステージは、大前さんが共感を覚えたという、アンデルセン童話『すずの兵隊』の映像に自身の体験を交えて進行。
絶望の中で心の支えになったのは事故直後、ダンスの道に進むことを反対していた今は亡き父親が病室を訪ね「光市、負けるな。お前ならできる」と強く手を握ってくれたことだったと話した。
父が自分を応援してくれていたことに気付き、同時に、工務店で泥まみれの作業着で働く姿を格好悪いと思っていたが「分厚く石みたいな手に、その力強さが格好良さだと感じた。その思いが血となり肉となって僕の中を流れている」と振り返った。
「事故後は悔しさや活躍する仲間への嫉妬、挫折感のどん底だったが、あの気持ちがあったから今の僕がいる」と言及。ある時、仲間のアドバイスで義足を外して踊ったことをきっかけに、自然な動きができると分かり、自分にしかできないダンスを求めて、ありのままの姿で踊る機会が増えていったという。
春にはアメリカ・ラスベガスの舞台にも立ち、新たなパフォーマンスの境地を開拓。「向こうは超バリアフリー。マイノリティー(少数派)な人がまちじゅうに当たり前のように居て、差別もなく個性として認めてくれる」と話した。
スクリーンに映し出された童話の結末に「ストーブの中で片足の兵隊(の人形)は溶けて死んでしまうけれど、僕の解釈では別の形に変化しただけ。それは進化かもしれない。僕は火の中に入れられ熱いともがき苦しんで変化、進化した。受け入れると、すてきな形になるよ、というお話だと思う」と話した。