ヘルパー同行で安心の旅行 NPO企画人気
NPO法人ふれ愛たび倶楽部(和歌山県和歌山市九番丁)が手掛ける高齢者向けのオーダーメード旅行が人気を集めている。ヘルパー資格を持つ運転手やスタッフが同行するのが特長で、高齢や体の不自由を理由に遠方の外出をためらいがちだった人も安心して利用できる。理事長の宮井淳彦さん(64)は「旅行は心が弾み、気持ちがリフレッシュする。お客さまの体調や要望に合わせた無理のない計画を組んでいます」と話す。
宮井さんは59歳の時、仕事を辞めて一念発起、旅行業に必要な資格を取得。NPO法人を立ち上げ、母(90)を連れて行った旅行が初仕事となった。女学生だった戦時中、学徒動員で川崎重工業明石工場で働いていた母は、「もう一度現地を訪れ、爆撃で命を落とした学友を慰霊したい」というのが長年の夢だった。
母のように「思い出の地」を訪問したい高齢者は多いのではないか。そう考え、始めたサービスには「遠方にある先祖の墓参りをしたい」「故郷の九州の実家や小中学校にもう一度行きたい」「新婚旅行の地を再訪したい」といった依頼が寄せられた。
中でも、戦争をくぐり抜けた世代には特別な思いを感じる。「戦友を弔いに行きたい。生き残ったことが後ろめたい」。そんな胸の内を打ち明けられるたび、「なんとか望みをかなえてさしあげたい」と強く思う。
移動に使う車は定員10人で、車いすも乗せられる。旅行前には家族やケアマネジャーと綿密に打ち合わせ、宿はバリアフリーに対応しているかや食事の場所などを下見する。体調に合わせて出発時間を調整したり、トイレ休憩にゆっくりと時間を取ったりできる融通の良さも強みだ。「高齢の方は我慢強く、あまり不満を口にされない。できるだけ不安を取り除き、満足していただけるよう心掛けている」という。
普段は車いす生活なのに、旅先に着いた途端、すたすたと歩き出した人がいた。「楽しかったね」「おいしかったね」。帰りの車中は思い出話に花が咲く。行きたかった場所を訪れ、安堵(あんど)したような利用者の表情を見るたびに、宮井さんは「この仕事で良かった」と思う。
車いすの母を連れ明石を訪れたあの日、入り口から工場敷地内の慰霊塔まで赤いじゅうたんが敷かれ、工場長が恭しく迎えてくれた。用意された花束を手向け、母は静かに手を合わせた。忘れられない思い出だ。
宮井さんは「高齢でも旅を諦めないでほしい。行きたかった場所、思い出の場所に元気なうちにお連れしたい」と話す。
旅行代金は、宿泊費、食事、駐車場代など実費の他、付き添いの場合ヘルパー代(5時間9000円~)などで、介護の度合いによって料金は異なる。
秋にかけて、京都の永源寺や鈴虫寺などの紅葉を楽しむ日帰りツアーや、1泊2日の城崎温泉旅行なども企画している。
問い合わせは同法人(フリーダイヤル0120・533・810)。