幹細胞の役割解明 神経麻痺性角膜症で医大
目の角膜に障害が起こり、決定的な治療法がない神経麻痺性角膜症について、和歌山県立医科大学は、角膜と結膜の境目である輪部の幹細胞の機能障害が原因であるとする世界初の研究成果を発表した。眼科学講座の雑賀司珠也教授が同大で記者会見し、「治療研究の方向性は幹細胞に注目したものに変わり、研究は一気に加速していくだろう」と今後の展望を話した。
神経麻痺性角膜症は、顔や目の感覚をつかさどる三叉神経が糖尿病や外傷などの影響で傷つくことにより、目の角膜上皮の障害として発症する。角膜の傷は治りが遅くなり、角膜潰瘍や失明に至る場合もあるが、これまでに決定的な治療法はなく、原因に関する諸説はあったが、完全には解明されていなかった。
雑賀教授は約7年前に計画を立て、マウスを使った研究を開始。三叉神経を傷めた程度の異なる2種類のモデルを作り、細胞の状態を調べた。すると、角膜(黒目)と結膜(白目)の境目である輪部の幹細胞の細胞増殖が遅れていることを確認。これが原因で角膜の傷の治りが遅くなることを突き止めた。
また神経麻痺性角膜症の状態をマウスで再現した際、「TRPV4遺伝子」が減少したことや、遺伝子が欠損したマウスの傷の治癒が遅いことに着目。障害を受けた三叉神経に同遺伝子を注入した結果、輪部の幹細胞の機能が回復し、細胞を供給して傷の治りが元通りになったことから、三叉神経が角膜の幹細胞をサポートするのに同遺伝子が重要であることが判明した。
この研究成果は米国の医学雑誌に掲載される予定。雑賀教授は「幹細胞と神経の関係に注目し、世界中で研究してもらえることを希望したい」と話している。