黒江の伝統継承 地域おこし協力隊が活動中

 和歌山県海南市黒江の紀州漆器協同組合(田村彰男専務理事)は、10月から地域おこし協力隊員2人を迎え、伝統産業の後継者養成と、町の観光PRに一層注力している。職人の町で育まれた豊かな文化や風情の残る町並みを基に、新たな町づくりを目指す。

 隊員は、奈良で木製の家具や小物の受注製作をしていた梅田俊一郎さん(42)と、和歌山市出身で、海南市のカフェ「ぬりもの館」の店主を務めていた瀬戸山江理さん(43)。

 2人は、ものづくりや昔ながらの町並みなどを愛好していることなどから、同組合の協力隊員募集に応じた。

 梅田さんは、長く使われていなかった築100年以上の漆器問屋に11月から住み始めた。職人の仕事場と住居が併設され、2階は漆を乾かす室(むろ)で、天上が低く窓ガラスは直射日光を避け、色合いの確認ができるすりガラス。

 問屋は、置いたままの在庫品や所蔵品などが山積みになっていたが、梅田さんは紀州漆器の技法を伝統技能士に学びながら、内部や室の整理や補修をして、江戸時代の職人の様式に近い生活を送りたいと願っている。

 瀬戸山さんは、同組合のホームページやフェイスブックの作成を行い、インスタグラムやツイッターの更新などを担当。蒔絵の体験プログラムの感想なども発信して、紀州漆器伝統産業会館「うるわし館」の観光拠点としての役割を強化していく。

 梅田さんは「現代には大量生産された品物があふれているが、私は手間をかけてものを作り、年月をかけて人が使う過程が好きで、それが実現できる機会を頂け感謝しています」、瀬戸山さんは「ストーリーのある品物が選ばれる時代が来ていると感じています。作家だけでなく町全体のストーリーを伝えたいです」と笑顔。

 田村専務理事は「地元の協力で隊員の居住先も決まり、黒江には昔ながらの人情味が色濃く残っている。約50年前は映画館もたくさんあり、文化力の高さを誇れるこの町に住みたい、という人が増えるような町づくりをしていきたい」と話している。

梅田さんが再生する漆器問屋で(左から梅田さん、田村理事、瀬戸山さん)

梅田さんが再生する漆器問屋で(左から梅田さん、田村理事、瀬戸山さん)