黒川紀章デザインの街灯を保管 近代美術館

和歌山県立近代美術館(和歌山市吹上)の一室に保管されている、デザイン性のある1本の街灯。同館と隣接する県立博物館の建物と同様に、日本を代表する世界的な建築家の一人・故黒川紀章が設計したもので、役目を終えて廃棄直前、美術館職員の機転によって同館が引き取ることになった。

街灯は1994年の同館竣工時に設置。昨年の夏、老朽化による街灯の取り替え工事が進む様子を、同館学芸課長の井上芳子さんが目にして驚いた。作業する人に駆け寄って聞くと、撤去後は廃棄してしまうとのこと。「黒川紀章のオリジナルデザインがなくなってしまう。せめて一つでも記録として残しておきたい」――。すぐに県の担当部署に連絡を取り了承を得て、そのうちの1本を同館で保管することとなった。

管理する海草振興局によると、街灯は三年坂沿いの北と南両側に計65本あり、2017年から18年にかけて全てを取り換えたという。長さ約4㍍で、同館の特徴的な「ひさし」のモチーフを使ったデザイン。井上さんによると、県からは元の街灯と同じデザインで業者に発注したものの、設置から20年以上が経過。もはや同じ材料は手に入らず、できる限り近づけて新たに制作されたようだという。

建物は、黒川氏が三年坂を隔てた和歌山城との歴史のつながりなどを大切に「共生」をテーマに手掛けた施設。県内では唯一、公共建築百選に選定されている名建築。井上さんは「建築物自体、黒川紀章の代表作の一つですが、県の文化遺産としても誇るべき建物。皆さんの記憶に残すためにも、美術館として、建物の魅力を伝えていきたい」と話す。

今後は企画展などでの活用を検討しており、「いつか皆さんに見ていただける日が来ればいいですね」と話している。

近代美術館で保管されている黒川氏デザインの街灯

近代美術館で保管されている黒川氏デザインの街灯