序曲「徳川頼貞」吹奏楽版完成 楽譜を配布
紀州徳川家第16代当主、徳川頼貞のために大正時代に書かれた管弦楽曲「序曲『徳川頼貞』」の吹奏楽版が完成した。原曲は1918年、東京・麻布の旧徳川邸に誕生した日本初の本格的コンサートホール「南葵楽堂(なんきがくどう)」開堂に際してイギリスのエドワード・ウッダール・ネイラー博士が作曲。昨年で100周年を迎え、和歌山県がプロの編曲家・大橋晃一氏に吹奏楽版への編曲を依頼した。楽譜データを県のホームページで公開している。
徳川頼貞(1892~1954)は西洋音楽好きで、英国・ケンブリッジ大学に留学。作曲家でオルガニストのネイラー博士に教えを受けた。後に麻布の紀州徳川邸に南葵楽堂を建て、恩師のネイラー博士に記念の曲を作ってくれるように依頼。このような施設の開館を記念する曲を海外の作曲家に依頼するのも本邦初だったとされる。
ネイラー博士は急いで曲を作ったが、当時の郵便事情ではイギリスから日本へ楽譜が届くまで15週間かかり、開堂記念のコンサートには間に合わなかった。2年後の1920年、パイプオルガンの完成を記念する臨時音楽会で海軍軍楽隊によって初演。博士は行進曲「威風堂々」のエルガーや組曲「惑星」のホルストらと同時代の作曲家で、作品にはエルガーの影響も感じられるという。
吹奏楽版に編曲した大橋氏は、東京藝術大学音楽学部器楽科ホルン専攻卒業。神奈川フィルハーモニー管弦楽団に2015年までホルン奏者として在籍しており、現在は同楽団のミュージックアドバイザー、東京藝術大学非常勤講師。今回編曲した「序曲『徳川頼貞』」について、「芸術性の高い曲。演奏が難しい部分があるが、音楽的な充実感が存分に味わえる。作曲から100年たった今、演奏する皆さんにそれを体感していただきたく、オーケストラから吹奏楽へ編曲した」と述べている。
原曲の著作権保護期間は過ぎており、演奏に著作権使用料は発生しない。県は、県吹奏楽連盟を通じてスコア・パート譜セットを県内の吹奏楽団や学校吹奏楽部約90団体に配布。秋には生演奏の音源を制作し、インターネットなどで公開する。
県は「楽曲の周知を通じて、南葵音楽文庫の普及、紀州徳川家の顕彰を図っていく」としている。南葵音楽文庫は頼貞による西洋音楽関連文献などのコレクション。約3万点の資料があり、現在は県に寄託され、一部が県立図書館などで公開されている。