母の味を受け継いで 人気の焼き鳥店が復活
和歌山インターチェンジ近くの和歌山県和歌山市鳴神に、焼き鳥の持ち帰り専門店「湧水(ゆうすい)」(北川由美店長)がオープンした。「『鳥由(とりよし)』の味復活」と言ったほうがいいかもしれない。「鳥由」は、鳥以外は焼かない徹底した焼き鳥専門店として地元で幅広い年齢層のファンを持ち、十数年前まで営業していた人気店。懐かしい味を母娘で再び届ける。
「鳥由」は、養鶏場に嫁ぎ20年間かしわの卸業をしていた由美さん(54)の母・好美さん(81)が、その知識や経験を生かし36年前にオープンした。好美さんが44歳、由美さんが18歳の時だった。
「日本人はしょうゆと砂糖の味付けが基本」と、たれは母が開発。由美さんによると、当時和歌山に焼き鳥屋は少なく、「鳥由」はすぐ人気店になったという。鳥を知り尽くした好美さんが作ったたれの味は格別で、多くの人がその味に引かれ修行に来たという。のちに有名店となる市内の焼き鳥屋の多くは、実は原点は“好美さんの味”ということはあまり知られていない。
オープン当時、由美さんは友達と遊びたい盛りの多感な時期で親子で働くことも嫌だったが、店が忙しく仕方なく手伝った。店がオープンして1年がたった頃、父が急逝。以降好美さんが1人で店を切り盛りした。好美さんは焼き鳥はもちろん、客との会話も大切にしてきた。そのため常連客など多くの人に愛され、店内はいつもにぎわっていた。
そんな「鳥由」が13年前、店じまいをすることに。原因は好美さんが難聴になり、客とのやりとりが困難になったため。大きな音を発する換気扇の前に長年、立ち続けたことが原因だった。
向かいでマージャン店を営んでいた由美さんは、鳥由閉店後の店舗でそば屋などさまざまなことをしたが全て長く続かず失敗。鳥一筋で極めてきた母に対し自分は失敗ばかり。鉄板で鳥を焼いたこともあったが、「鳥由の常連客が食べてくれず帰ったことが忘れられない」と由美さんは振り返る。「お前何やってんのよ」という周囲の声も心に刺さった。
そんな時、息子の幼なじみから「いずれはやきとり屋を継ぎたい」という息子の思いを耳にした。「おかんも今は遠回りしてるけどそのうちきっとやるはず」
と、日頃そっけない息子がいろいろ考えていたことに母親としてハッとした。
「自分は今まで卑屈に感じて、焼き鳥だけは避けてきた。自分と向き合わなあかん」――。
由美さんは焼き鳥屋の再開を母に相談。「やろか」と一つ返事をもらった。 早速、当時の味を好美さんが再現。串の刺し方などなんとなくは覚えていたが、一から母に習い直し準備を進めた。
まずは持ち帰り専門店からの再出発。焼き台は大阪の道具屋筋で一番小さいサイズを選んだ。「いつか息子と大きいサイズを買う日まで、2代目として母の味をしっかり継いでいきたい」と、葛藤やプレッシャーを乗り越え、前に進み始めた由美さんは笑顔で話す。
紀州うめどりを使用したメニューは、せせり、モモ、かわ、つくね、きも、すなずり、こころで各1本120円(塩、たれ)。
母こだわりの紀州備長炭炭火焼き。「母にとっても当時の常連さんと触れ合う機会になれば」と願い、親孝行の気持ちと焼き鳥への思いは強い。
【やきとり湧水】和歌山市鳴神736の14▽℡073・473・6646、090・3488・6646▽営業時間=午後3時~7時(注文は随時受け付け)。