自分史描いた写生句 澤さん第一句集出版

和歌山県海南市日方の澤禎宣(よしのぶ)さん(76)が第一句集『鵙猛る』を角川書店から出版した。これまでの9年ほどの間に詠んだ中から432句を精選して収録。作品は眼前の景色と、自然に親しんだ幼少時や〝企業戦士〟としての活躍の思い出を重ねた写生句。「自分史を1冊にまとめる機会にもなった」と出版を喜んでいる。

澤さんは同地区出身。10代から詩や短歌に興味を示し日記に記すなどしていた。高校卒業後、証券会社に勤務し関西や九州各地に赴任したが体調を崩したことから51歳で帰郷。同社を定年退職後、2009年ごろから本格的に句作を始め、海南市の鳥井保和さんが主宰する俳句会「星雲」に入会した。

新聞の俳句欄に投稿し注目を浴びたのは「塩梅は親父譲りの鮨を押す」。故郷の行事食だったなれずしをはじめ、アユ釣りや闘鶏なども手掛ける趣味人だった父親への憧憬(しょうけい)を込めた。

句集のタイトルにも掲げた「鵙」が登場する「鵙猛る無人駅舎の手配書」は、勤務時の出張先だった京都の丹後鉄道での情景を思い起こして詠んだ。どう猛な鳥である鵙と、うら寂しく感じられた駅に貼ってあった指名手配犯の顔写真を詠み込んだことに厳しさを備えた研ぎ澄まされた感覚がうかがえる。

さらに家近くの交差点「六堂辻」では幼少の頃、川に赤い染料が流れていた光景の記憶から仏界をイメージ。輪廻(りんね)転生を意味する仏教用語「六道」と掛け、川辺に住み、人が近づくと数メートル先に飛ぶことから「道教え」と呼ばれる虫を夏の季語として登場させ、「六道のに迷へる道をしへ」と詠んだ。

日常の景色から記憶をよみがえらせ、独自の世界観を描く澤さんの写生句について句集の選者を務めた鳥井さんは「確かな俳味、即妙の機知に富んだ絶妙の配合」と評価。証券マンとして相場世界で活躍してきた澤さんを「企業で培われた感覚を俳句の世界でも初学の頃より遺憾なく発揮された」と同書の序で紹介し次作への期待も寄せる。

澤さんは「良い先生との巡り合いと、ご指導のおかげです」とほほ笑み、サギが魚をくわえるなど生き生きした情景が発見できる早朝の散歩に出掛け、句作に余念のない日々を送っている。
同書は2700円(税別)。

句集を手に澤さん

句集を手に澤さん