田島漆店旧工場など 国登録有形文化財に
国の文化審議会(佐藤信会長)は、和歌山県海南市船尾の「田島漆店旧工場」や白浜町の「南方熊楠記念館本館」など県内の6カ所、13件の建造物を登録有形文化財とするよう文部科学大臣に答申した。今回を含めて県内の登録数は91カ所、263件となる。
田島漆店旧工場は、1922年(大正11)から53年(昭和28)にかけて建設された玄関棟、食堂、商品蔵、新蔵、詰場(つめば)の5件が登録される。
紀州漆器の産地・黒江に隣接する船尾地区に位置し、昭和前期には漆生産で県内随一の規模を誇り、ここで精製、調合された漆が黒江の漆器生産を支えた。
初代・田嶋弥助は1872年(明治5)ごろから日方で漆器製造を始めたとされ、明治中期に漆器の原材料の一つである漆製造に転業。明治後期には二代目弥助が事業を軌道にのせ、1913年(大正2)に船尾の現在地を購入し、工場を移転させ、昭和前期にはほぼ現在の工場の姿が整った。
戦後の漆販売の低迷により2002年(平成14)に工場での生産を中止し、しばらく閉鎖されていたが、13年から地元有志によりコンサートや展示会などのイベントが開かれるようになり、ことしからカフェとしても活用されている。
現在も往時の建造物群がよく残されており、長く保存、活用が図られることが期待されている。
南方熊楠記念館は、和歌山県が生んだ世界的な学者である熊楠が残した文献、標本類、遺品などを保存し、その偉業を後世に伝える施設であり、本館は野生司義章(のうす・よしあき)が設計し、1965年(昭和40)に竣工した。
鉄筋コンクリート造り2階建てで、丸みを帯びた正面2階のひさしなどが特徴的なモダニズムを基調とした外観。60年代の建築ムーブメントの一こまを物語っており、全国的に知られている野生司の作品も少なく、近現代建築史の研究上も貴重とされる。
この他、県内で登録予定の建造物は、豊原家住宅2件(かつらぎ町)▽的場家住宅3件(同)▽神野阿弥陀堂(同)▽旧神田家別邸(串本町)となっている。