友ヶ島が音の美術館に 和市とAEIら連携
和歌山市は3日、加太沖に浮かぶ友ヶ島の第3砲台跡で、音声AR(拡張現実)アプリを使い、世界的にも珍しい〝音の展示〟を行う「友ヶ島第3砲台美術館」をオープンした。無人島の森に包まれ、戦闘に使用されることがなかった軍事要塞の空間に、わらべうたや神秘の物語が響き渡る。多言語の観光案内や視覚障害者への音声ガイドなど、社会インフラとして多様な活用法が期待される民間のシステムを用いており、友ヶ島は普及を占う最初の実証の場となる。
音の美術館は、市と大手レコード会社のエイベックス・エンタテインメント㈱(AEI)が共同開発した音声ARアプリ「友ヶ島」を使って楽しむ。
第3砲台跡の11カ所に、位置情報を把握する無線の信号発信機「ビーコン」を設置し、スマートフォンなどでアプリを使用した状態で近づくと、音声情報が自動再生される。
常設展の「サウンドスケール」は、国際コンクールで数々の受賞歴を誇る「和歌山児童合唱団」の美しい歌声で「和歌山のわらべ唄」を聞くもの。
物理的には同じ大きさの5カ所の弾薬庫を巡ると、歌声の聞こえ方が変わっていく。広くなったり狭くなったり、重くなったり、踊るように聞こえたり、さまざまなアレンジで幻想的な童謡がループ再生され、聴覚からの情報により空間認識が変化することを体感できる。
音源制作は作曲家の松本昭彦さんが手掛け、建築家で、加太に研究拠点を置く東京大学生産技術研究所の川添善行准教授が監修している。
さらに、開館を記念した企画展「ヤミツク~くらやみのいきものに関する研究結果展~」を31日まで開催。カンヌ広告祭などの受賞歴を持つ木谷友亮さんをディレクターに迎え、小説家・三崎亜記さんが書き下ろした物語を題材に楽しむ。
友ヶ島に存在していたという架空の生物「ヤミツク」を調査・研究してきたある博士の記録を追体験する内容。音声ARアプリから聞こえてくる博士の独白に耳を澄ませながら、第3砲台跡の各所に展示された、研究成果を示すアート作品を鑑賞する。
資源生かすインフラ広がる活用の可能性
エイベックスは㈱電通ライブ、㈱バスキュールと協力し、企業や自治体が音声ARコンテンツを作成、運用でき、誰もが体験できるシステムの構築を目指しており、友ヶ島の取り組みが連携事業のスタートとなった。
友ヶ島は、アニメーション映画『天空の城ラピュタ』の世界に似ているなどとして注目されて以降、人気が高まっており、市は音声ARの導入によって観光活性化が一層進むことを期待している。
アプリと設置されたビーコンは、島の歴史や観光案内を多言語で提供することや、主に視覚障害者を対象とした音声ガイドなど、新たなコンテンツを作成し、蓄積するほどに活用法が広がっていく。
エイベックスのゼネラルディレクターで市出身の中前省吾さん(40)は「素晴らしい観光資源があり、大好きな故郷で取り組みができ、うれしい。今はインフラができたスタートの段階で、これから価値創造ができる。資源を生かすストーリーや誘導ルートなどのコンテンツを音声ARで作っていけば、違う楽しみ方ができ、島の価値は積み重なっていく」と話していた。
アプリ「友ヶ島」はアップストア、グーグルプレイでダウンロードできる。