旅行貯金で1万局 太田さん県内窓口も制覇

全国の郵便局を訪れ、窓口で貯金をして通帳に記念のゴム印を集める「旅行貯金」―。兵庫県西宮市の太田篤さん(46)が、開始26年目にして、全国1万局目と和歌山県内全局制覇を同時に達成する快挙を成し遂げた。県内は、局名以外にイラストやキャッチフレーズが入った「宝のゴム印」の宝庫としてファンの間では有名。旅行貯金の魅力を、ぜひ多くの県民に知ってほしいと話す。

旅行貯金の発祥の時期は定かではないが、鉄道ファンらの間に口コミで広がり、レイルウェイ・ライターの種村直樹さんの著作などをきっかけに注目度が高まり、1990年代にはブームとなった。郵便局は全国に約2万4000局あり、全制覇を目指すのか、近隣を中心に旅をするのか、楽しみ方はさまざまで、今も全国に熱心な愛好者がいる。

太田さんが旅行貯金を始めたのは、大学時代の1994年8月。旅行貯金をしていた友人と共に北海道北部の礼文島を訪れたことがきっかけだった。その魅力にはまった太田さんは、大学生のうちに約5000局を回り、社会人になってからの約20年は、コツコツと少しずつ旅を続けてきた。

「郵便局がなければ訪れる機会はなかったはずの場所がたくさん。津々浦々でいろんなものを見られるのが楽しい」

旅行貯金の訪問地域や箇所数をポイント化して競う「国際ボランティア郵貯ラリー」(郵貯ラリー協会主催)で98年の第2位、郵政省貯金局長賞を受けた実績もある太田さん。これまでに千葉、富山、石川、福井、滋賀、京都、兵庫、岡山、広島、鳥取、島根、香川、徳島、愛媛、高知の各府県を全制覇し、今回の和歌山が16府県目。ゴム印を集めた通帳は現在、77冊目となっている。ただし、郵便局は改廃が行われているため、制覇後に新設、改称された局もあるとのこと。完全制覇への道はなかなか険しい。

和歌山は、大半の郵便局が「宝のゴム印」を使っているファン垂涎(すいぜん)の地域。例えば和歌山市内の郵便局のゴム印は、和歌山城や紀州手まり、不老橋などの名所、名物のイラストが入ったものが多い。

太田さんは97年8月15日から県内を回り始め、ついに2020年2月6日、貯金可能な有人窓口のある315局の訪問と、全国1万局目を同時に達成した。

快挙の瞬間を共に喜ぼうと、この日は友人の中村龍史さん(42)がタイ・バンコクから駆け付けた。23年前、礼文島で同じ宿に泊まり合わせ、どちらも旅行貯金をしていたことから意気投合。学生時代はよく一緒に旅行貯金に出掛け、中村さんも4651局を訪問している熱心なファンだ。

同日早朝、関西国際空港で合流した2人は、自動車で和歌山市、海南市、岩出市、紀の川市の各局を回り、午後にはかつらぎ町へ。待望の県内制覇は、かつらぎ広口簡易郵便局で迎えた。

事情を聞いた谷口早永局長も「1万局目と県内全局の達成をうちで迎えてもらえて、うれしい。おめでとうございます」と話し、「串柿の里」のキャッチフレーズが記され、柿に合わせた赤いインクのゴム印を押した。笑顔の太田さんは局員らと記念のカメラに収まった。

1万局の節目を喜びつつ、太田さんは「完訪の夢は捨てていない。老後の楽しみに取っておきます」と話し、今後も挑戦を続ける。「地元の郵便局に出掛けることから始められるので、子育て中の主婦の方などにもオススメ。外に出る目的ができ、お金はかからず、むしろたまる趣味です」と魅力を話している。

1万局と県内全制覇を達成したかつらぎ広口簡易郵便局前で、太田さん(中央)、中村さん(右から2人目)、局の皆さん

1万局と県内全制覇を達成したかつらぎ広口簡易郵便局前で、太田さん(中央)、中村さん(右から2人目)、局の皆さん