国指定文化財「養翠園」の魅力
前号では、リアス式海岸が織りなす景観に優れた雑賀崎の魅力を取り上げた。今週は北へ進路を変え、間もなく見えてくる養翠園(ようすいえん)の歴史と魅力を紹介したい。
養翠園は和歌浦・雑賀崎エリアの北端に位置する庭園。紀州藩十代藩主・徳川治宝の別邸である「水軒御用地」の庭園として、文政元年(1818)から9年(1826)にかけて造営された回遊式庭園。海浜の立地と風致を生かした「汐入」と呼ばれる様式をとる庭園は、同じく徳川家に由来し将軍家の別邸・浜御殿を前身とする東京港区の都立庭園「浜離宮恩賜公園(はまりきゅうおんしていえん)」と養翠園のみが現存。貴重な存在として平成元年12月、国指定文化財(史跡・名勝)に指定されている。
空から眺めると、赤いアーチが特徴の水軒大橋付近から和歌浦湾(大浦湾)の海水を取り入れ、南側に張り出したL字型の入り江部分と園内がつながっている。
庭園は園内の建造物「養翠亭」を中心に構成。東側には広大な池泉が設けられ、池の中央に配置された中島に向け土堤が伸び、美しいアーチが特徴の三つ橋と太鼓橋が架けられている。これは、中国杭州の西湖の蘇堤をモチーフとする中国風のものであるという。
養翠亭に近い西側では、そこから見える天神山と章魚頭姿山(高津子山)を借景に持つ日本らしい回遊式庭園を構成。東西で異なる風景を楽しむことができる。
日本で二つしかない汐入の様式をとる庭園。200年もの歴史を現世に残す貴重な存在。訪れてその魅力にふれてほしい。
(次田尚弘/和歌山市上空)