芸術文化の未来育む きのくに音楽祭が閉幕
和歌山県内初の本格的な音楽の祭典として2年目を迎えた「きのくに音楽祭2020」は11日、4日間の全日程を終え、閉幕した。生誕250年のベートーベンの名作を中心に、一流音楽家による室内楽の演奏会が行われたのをはじめ、0歳児から参加できるファミリーコンサート、小学生から高校生までの若い才能によるコンサートなど、子どもたちに向けた取り組みに力を入れ、音楽を身近に楽しむ裾野を広げた。
今回は、4、9~11日の4日間、和歌山市西高松のメディア・アート・ホールをメイン会場に、市内各地で演奏会を開催。4日のファミリーコンサートは、グリム童話を音楽とナレーションで紹介するなどの企画で、子どもたちはシートに寝転んだり、動き回ったりしながら自由に楽しんだ。
「きのくに若い芽のコンサート」では、オーディションで選ばれた小学生から高校生までの9人が演奏し、輝く才能を披露した。
9日に始まった有料公演のオープニングは、県内でも盛んな吹奏楽に取り組む中高生らに、一流の管楽器奏者の演奏を間近で体験してもらおうと企画。今回の音楽祭を機に、日本センチュリー交響楽団首席客演ホルン奏者の日高剛さんを中心に結成された木管五重奏団「WindFive」とピアノによる多彩な合奏がホールに響いた。
10日は、ベートーベンの自筆楽譜などを含む紀伊徳川家16代当主・徳川頼貞の貴重なコレクション「南葵音楽文庫」に関する専門家の解説付きコンサート、日本が誇る実力派ピアノ三重奏団「トリオ・アコード」によるベートーベンのピアノ三重奏曲の傑作を聴くコンサートなどが行われた。
音楽祭の最後を飾ったのは、同ホールでの10日夜のファイナルコンサート。ベートーベンに「きのくに」を織り交ぜるという企画で、和歌山ゆかりの8人の鍵盤奏者が集まり、ベートーベンの時代に使われたフォルテピアノも使い、変奏曲のリレー演奏、連弾などを披露。歌舞伎の演目「娘道成寺」を題材にした日本歌曲「舞」など演奏機会の少ない名作も登場した。
最後はベートーベンの交響曲第9番第4楽章より「歓喜の歌」、スコットランド民謡「蛍の光」で締めくくり、聴衆もメロディーをハミングで口ずさみ、会場は一体となった。
総監督を務めた和歌山市出身のバイオリニストで東京藝術大学学長の澤和樹さん(65)は「次代の和歌山の音楽文化を築くため、若い人たちを巻き込んでいこうと取り組み、内容的にもレベルの高い音楽祭にすることができた」と話し、来年以降、さらに充実した音楽祭を継続するとしている。
昨年に続いて来場した同市出身で大阪市の主婦、岡崎裕季子さん(36)は「小さい子どもも聴けるコンサートが身近にあるのはありがたい」、娘でピアノを習っている小学3年生の莉明(りのあ)さん(9)は「すごく良かった。演奏の指も近くで見られて勉強になった」と話していた。
今回の音楽祭の公演日程は全て終了したが、和歌山市、海南市、紀美野町の小学校5校とこども園1園での出前コンサートの企画が続いており、ピアノ三重奏や金管五重奏、打楽器アンサンブルの3組の演奏家たちが各校に出向き、子どもたちの目の前で音楽を届ける。