「稲むらの火」題材に 新作オペラ今秋公演

安政南海地震(1854)の津波で村人を救った故事「稲むらの火」で知られる和歌山県広川町の商人・濱口梧陵と幕臣・勝海舟の交流を描いた新作オペラ「稲むらの火の物語―梧陵と海舟」が11月14日、和歌山城ホール(和歌山市七番丁)で初演されるのに向け、本格的に稽古が始まった。

同オペラは、今秋開かれる紀の国わかやま文化祭2021に合わせ、和歌山市民オペラ協会(多田佳世子会長)が公演する。男性が主役のオペラは珍しく、公演プロデューサーの多田会長(82)は「オペラを通して梧陵の功績をたくさんの人に知ってもらいたい」と話す。

同協会は27年前「本格的なオペラを和歌山で」と多田会長を中心に設立。日高川町の道成寺に伝わる安珍清姫伝説を題材にした和歌山ゆかりの創作オペラなどにも取り組む。

同作は、コピーライターとしても活動する中瀬央彰さんが演劇用に書いた脚本をオペラ用に書き換えたもの。「稲むらの火」の舞台である広村の日常風景や、千葉での梧陵と海舟(麟太郎)の交流、村を襲った津波の様子が史実を交えながら語られ、村の再建のため海舟からの渡米の誘いを固辞した梧陵のエピソードなどが描かれている。

知人からの紹介で脚本の存在を知った多田会長が「和歌山にちなんだものをやりたい」と持ち掛け、実現したという。

「オペラごっこはしたくない。水準の高い良いものを市民に届けたい」と話す多田会長は、第一線で活躍するソリストらに出演を依頼。テナー歌手の清水徹太郎さん(濱口梧陵役)、バリトン歌手の晴雅彦さん(勝麟太郎役)をメインキャストに据え、同市の久保美雪さん(梧陵の妻役)、井谷有紀さん(麟太郎の妹役)、同市出身の中野綾さん(濱口家の女中役)、八木寿子さん(同)が脇を固める。

コーラスには、同市民オペラ・アンサンブルのメンバー、そして村の子ども役を同協会のワークショップに参加経験のある小学2年生から中学1年生6人が演じ、オーケストラと共に作品を作り上げる。

9日、伝法橋南ノ丁の市民会館で行われた練習では、指揮を務める牧村邦彦さんのげきが飛ぶ中、津波が迫り来る様子をおどろおどろしく歌声で表現。迫力あるコーラスを響かせた。

麟太郎役の晴さん(54)は「すでにイメージがある実在の人物を演じるのは、ありがたくもあり、難しくもある。音楽の波の上で表現していきたい」と気合十分の様子。多田会長は「練習の成果を聴いて、いいオペラになると確信した。自然災害を前にすると人間は無力な存在。津波の恐ろしさを声で表現できれば」と話し、「和歌山でも頑張ればこれだけのものができる。皆さんの力を借りて、良い作品に仕上げていきたい」と意気込んでいる。

午後2時開演。指定席5000円、自由席4000円(当日は各席とも500円増)。問い合わせは同協会(℡073・446・0101)。

美しい歌声を響かせる出演者たち

美しい歌声を響かせる出演者たち