命見つめた特攻の物語 『流れる雲よ』公演
第二次世界大戦時の特攻隊を題材にした平和祈念舞台『流れる雲よ』の公演が22日、和歌山県民文化会館(和歌山市小松原通)で行われ、昼と夜の部合わせて約400人が鑑賞した。76年前の鹿児島の特攻基地を舞台に、若き特攻隊が祖国や家族を守るため、仲間と支え合いながら限りある命を輝かせた物語。国内外で20年以上公演され続けているが、和歌山での公演は今回が初めて。
和歌山市の石浦ゆかりさんが昨年12月、「流れる雲よ」大阪公演実行委員会協力のもと、和歌山公演実行委員会を結成し、メンバー13人で和歌山での初公演を実現させた。
実行委員長を務める石浦さんは4年前、当時小学5年生だった娘と共に、同作品の大阪公演を鑑賞。公演後、「何があっても強く生きやなあかんな」と号泣する娘と共に、作品に感銘を受けたという。
石浦さんは「今の日本は豊かだけれど、自殺者がすごく多い」と話し、「生と死を自分で選択できる今の時代にあり、不安で心が折れていく人も多いコロナ禍だからこそ、いろんな人に見てほしい」との思いを強くし、今回の和歌山公演を決めた。
同委員会のメンバーらは公演前日、同舞台を手掛ける「演劇集団アトリエッジ」のメンバーらと共に、護国神社(同市一番丁)を訪れ、舞台公演の成功を祈願した。
公演当日、アトリエッジ主宰の奈美木映里さんは、自身が22年前、草部文子のペンネームで描いた同作品について、「戦後教育で偏った見方でしか戦争を見ていなかった自分が、右でも左でもなく、本当の中央がどこなのかをフィクションで描いた」と説明。当時もそうだったように、身近な存在が死んでいった真実をより伝わりやすくするため、出演者らは坊主頭ではなく、あえて現代風の髪型で、ダンスなども取り入れながら表現している。
舞台の終盤には、特攻隊員が「今、日本はいい国ですか」と問い掛けるシーンがあり、奈美木さんは「答えはみんなの心で考えて、持ち帰ってもらえれば」と話し、「戦争が持つ本当の真実を、親や教育者たちにきちんと学んでもらいたい」と期待を込めた。
公演中、会場のあちこちからすすり泣く声が聞こえ、鑑賞した人たちからは「命を大切にしなければ」といった声の他、「家族に見せたい」など、人に伝えたいという声が多く寄せられたという。
石浦さんは「全てボランティアで行っているので、どこまで続けられるか分からない」とした上で、来年も和歌山で公演することを決め、「みんなの思いや信念をぶれずにつないでいくことが使命」と語っていた。