伝統工芸士に東さん 紀州箪笥で初の女性

経済産業大臣が指定する伝統的工芸品「紀州箪笥」(塗装部門)の伝統工芸士に、和歌山県紀の川市の東ちあきさん(39)が認定された。紀州箪笥としては初の女性伝統工芸士。県内で12年ぶり、2人目の女性伝統工芸士の誕生に、東さんは「職人として光栄。女性も『できる』が当たり前になればうれしい」と話し、同じく紀州箪笥(総合部門)の伝統工芸士で夫の福太郎さん(40)と共に紀州箪笥の魅力を広めていくと新たに誓う。

伝統工芸士とは、一般財団法人伝統的工芸品産業振興協会が実施する認定試験に合格し、登録を受けた者。受験には実務経験12年以上と高度な技術や知識が求められ、2022年2月末時点で237工芸品の3623人が伝統工芸士として従事している。

東さんは滋賀県出身。服飾デザイナーとして勤めた後、結婚を機に2005年、同市に移住した。夫・福太郎さんは、婚礼家具などを扱う、1891(明治24)年創業の「㈲家具のあづま」の5代目。塗装を始めたきっかけは、福太郎さんの「女性ならではの美的感覚を生かし、挑戦してみては」という一言。息子3人の育児をしながら研さんを積んだ。今では漆を除く、塗装のほとんどを手掛けている。

紀州箪笥の材料は桐。天然の防虫効果と密閉性に優れ、婚礼道具として昔から使われている。洗い、塗り直すことで、世代にわたって受け継いでいけるのも魅力の一つ。塗装は主に、京都山科でのみ製造される天然の石「砥(と)の粉」を細かくしたものを使う。カルカヤの根を束ねたもので表面を薄く削る「うずくり」をした後、砥の粉を混ぜた塗料を2~3回塗り重ねる。一番緊張するのは最後の塗り。ここで失敗すると、すべてやり直し。水に弱く、ぬれるとシミになるため、汗一つ落とせない。

箪笥作りは元々、男性職人が多く活躍する。塗装も重ねるほどに重く、力が必要になる。東さんは、道具を使いやすい刷毛に変え、体の使い方も工夫をした。小柄な体を上手に生かし、一日がかりで高さ1・8㍍の箪笥を仕上げる。

「塗装は化粧。そのもの自体を引き立たせる最後の役割で、無くてはならないもの」とし「箪笥は大切な子どもと一緒。『愛用品』と言ってもらえるものを送り出したい」と柔らかな笑顔で話す。

集中力が必要な塗装作業に、家族の存在は大きい。バーナーで桐材を焼き、柿渋砥の粉で仕上げる同社オリジナル「焼き桐柿渋砥の粉仕上げ」は、塗装に1週間ほどかかる。この時ばかりは、家事も育児もストップし、作業に没頭する。「プレッシャーも大きく、本当にぴりぴりする。見守ってくれる家族には感謝」と笑顔。「焼き桐柿渋砥の粉仕上げ」の箪笥は優良県産品「プレミア和歌山」にも選ばれている。

夫婦で紀州箪笥の伝統を守る一方、材料となる桐の魅力を伝える雑貨ブランド「ME MAMORU(みまもる)」を立ち上げた。軽くて丈夫な桐の特長を生かしたグラスや椅子などで、桐の可能性を最大限に引き出す。「私は『桐』に魅了された一人。私の使命は桐の良さを伝え広げていくことで、その素晴らしさを皆に知ってもらいたい」と話す。

箪笥作りでも新たな挑戦を始めた。同社は現在「女性だけで作る桐箪笥プロジェクト」を進行中。リーダーは東さん。後進の指導にも力が入る。「私だから伝えられることがある。やりたいという子が増えればうれしい」と紀州箪笥初の女性伝統工芸士として第一線に立ち、さらなる躍進を目指す。

刷毛で砥の粉仕上げをする東さん

刷毛で砥の粉仕上げをする東さん