ふるさとで夢を実現 若手起業家2人を紹介

 

働き方が多様化する中、既存の枠にとらわれず起業を目指す人が増えている。自身の経験や技術、アイデアを生かし、県信用保証協会の支援を受けて、ふるさと・和歌山に戻り夢をかなえた創業間もない若手起業家2人に、創業までの道のりや苦労、起業の魅力や思い、今後の展望などを聞いた。

 

“今が旬”のタルト並ぶ
岩出市 Patisserie A.

県産のモモを使ったフルーツタルトを作る鈴木さん

県産のモモを使ったフルーツタルトを作る鈴木さん

季節の県産フルーツをたっぷり使ったタルトが楽しめる、岩出市北大池の洋菓子店「Patisserie A.(パティスリー・エー)」。昨年5月にオープンし、フルーツとスイーツが大好きだというパティシエの鈴木和綸(あいり)さんが手作りするタルトは、まるで宝石のようだと人気を集めている。

店に並ぶタルトは、フルーツが山盛りで見た目も鮮やか。春は紀の川市産のイチゴ、夏は桃山町産のモモなど、季節に合わせてフルーツも変わる。鈴木さんは「和歌山は四季折々さまざまなフルーツが採れ、どれも本当においしい」と旬の味を生かしている。
店頭に並ぶタルトは15種類ほど。この時季にだけ食べられる“一期一会”のタルトに出合えるのも魅力の一つ。

鈴木さんは同市出身。製菓の専門学校を卒業後、沖縄に移住し、人気のフルーツタルト専門店で1年間働いた。素材に妥協せず、旬のフルーツにこだわる同店は、鈴木さんの理想そのもの。「和歌山でもこういう店があれば」と夢を膨らませ、地元に戻ってからもパティシエとして腕を磨いた。2020年12月、カフェだったという現在の店舗が空いたのをきっかけに、「今しかできない」と決意。地元で念願の店を開いた。

「産地ならでは、一番おいしい時季のものをぜいたくに味わう」を大切にする鈴木さん。フルーツは、地元の青果店や産直市場で購入。一つひとつ手に取り、鮮度や弾力、香りを確認し見極める。

直径6・5㌢、手のひらサイズのタルト生地に、クリームをしぼり、たっぷりのフルーツを盛る。きび砂糖を使ったサクッとした生地の食感に、フルーツの甘みと酸味がやさしく口に広がる。

こだわって選んだ皿で季節のフルーツタルトを提供

こだわって選んだ皿で季節のフルーツタルトを提供

今や地元を中心に、神戸や奈良など県外からも訪れる人気店に。多い時では、一日に500個売れることもあるという。

現在も1人で店を切り盛りする鈴木さん。「作るのも自分、経営も自分」と話し、深夜まで店で作業することも。不慣れな経営についてはセミナーに参加するなど、一つひとつ課題をクリアしてきた。「自分のペースでできるのが起業の魅力」と話し、「大変だけど、好きなことをできているから楽しい。何より、お客さんからの『おいしかった』が活力になる」と笑顔で話す。

イートインスペースは3席。白を基調に落ち着いた空間で、自慢のタルトがエスプレッソと共に味わえる。お客さんのリクエストにも応え、丸ごと1個使ったモモのタルトは、ここでの会話から生まれたという。

鈴木さんは「将来は移動販売の車で回り、和歌山のフルーツの魅力を知ってもらいたい」と話し、大好きな県産フルーツの魅力をタルトで届ける。

【Patisserie A.】岩出市北大池120の2▽正午から午後5時まで▽不定休▽@patisserie_a

 


 

「一生もの」ビンテージ家具
和歌山市 SHEEP SHED

愛情を持って丁寧に家具を磨く木村さん

愛情を持って丁寧に家具を磨く木村さん

1950年代から70年代にかけて作られた北欧ビンテージ家具を取り扱う、和歌山市内原の「SHEEP SHED(シープ・シェッド)」。仕入れから修理(メンテナンス)、販売までを自社一貫体制で行う、県内では珍しいスタイルで、オーナーの木村修平さんは「家具は自分のライフスタイルを作るもの。ぜひ、一生ものを見つけてほしい」と笑顔で呼び掛けている。

同店は先月13日にオープン。約100坪ある店内は、展示スペースに加え作業場や事務所も併設。年月を経たビンテージ家具が磨かれ、輝きを取り戻していくのをガラス越しに見学できる。

木村さんは美浜町出身。「ものづくりが大好きだった」という幼少期を経て、神戸芸術工科大学に進学。卒業後は、北欧ビンテージ家具の輸入販売などを手掛ける「BELLBET(ベルベット)」(埼玉県)に就職し、11年間職人として生地の張り替えや木の接ぎ方の修理技術を学び、買い付けや営業など経営の知識も習得。その後、「家具やお客さまに対して最後まで責任を持つ」をモットーに、全工程を自社で行う同社を1人で立ち上げた。

力を入れるのは、オリジナルの風合いをそのままに一番良い状態に修復、回復させるメンテナンス。美しい木目を出すため、手作業で時間をかけて研磨する。単に磨いてきれいにするのではなく、家具が使われた背景や職人に敬意を払い、丁寧にメンテナンスすることで、新たな息吹を吹き込み、次の世代へと引き継ぐのが木村さん流。

展示スペースに並ぶのは、デンマークやオランダなどヨーロッパ各地のビンテージ家具が中心。引き出しが豊富なチェストや大人数でも同時に食卓を囲めるよう、エクステンション天板が内蔵されたテーブル、中央がくびれたユニークな形のスツールなど。「どれも大切に使い込まれ、独特の風合いに育った1点もの。シンプルかつ機能的で、日本の住宅にも、よくなじむ」と話す。

素材は、木目が美しいチークやローズウッド、オークなど今では手に入りにくい天然木。木村さんが「時間がつくり上げた色」と表現する経年による色調変化が魅力で、長年愛用するほどに風合いは増すという。

ヨーロッパのビンテージ家具が並ぶ店内

ヨーロッパのビンテージ家具が並ぶ店内

都心部と地元に近いこの場所で、起業して1カ月弱。改装中の店内を見ながら、「自分のスタイルを目指すには起業が合っていた」と振り返り「不安もあるが、やっとここまで形になってきた」と笑顔。

「ここで出合った家具とは長く付き合ってほしい」と購入後のアフターフォロー体制も万全。「家具も、お付き合いも一生」を大切に走り出したばかりだ。

同店ではビンテージ家具の他、県内初進出となるオランダのGalvanitas(ガルファニタス)と国産家具メーカー「Veronica(ベロニカ)」も取り扱っている。

【SHEEP SHED】和歌山市内原997の1▽午前11時から午後6時まで▽不定休▽℡073・488・2366▽@sheepshed_shop