巨大地震への備え万全に 世界津波の日【特集】
巨大地震への備え万全に
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中内防災企画課長に県の対策聞く
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世界津波の日
11月5日は「世界津波の日」。世界中の防災意識を高め、津波から一人でも多くの命が救われることを願い、国連が2015年に定めた。168年前のこの日、安政南海地震が発生。広川町で濱口梧陵が稲むらに火を付けて村人を高台に誘導し、津波から多くの命を救った「稲むらの火」の逸話に由来する。この時の津波や地震、防災の教訓は、東日本大震災や紀伊半島大水害など、現代の大災害の教訓とともに、きょうを生きるわれわれの防災・減災の政策にも生かされている。
県総務部危機管理局防災企画課の中内啓文課長(55)は2011年4月、東日本大震災が起こった翌月に総合防災課(現防災企画課)に配属された。「東北を支援しつつ、いつ起こるか分からない県内の大災害への対策に努めた」と当時を振り返る。
さらに同年9月、紀伊半島大水害が発生。県はこれまでの防災・減災の方針を約3カ月かけて総点検し、課題を洗い出した。一つひとつの課題への対策を短・中・長期に分け、実施できるものは速やかに実施。残った課題についても、専門家の意見を聴取しながら中・長期にわたり実施している。
大震災大水害教訓に 23の方針・政策誕生
県は現在、東日本大震災と紀伊半島大水害を教訓に、「防災・減災の基本的方針・政策」として23項目を掲げ、対策を進めている。14項目からなる「事前対策」、8項目の「応急・復旧対策」、1項目の「復興対策」があり、そのほとんどが全国で唯一、または初の政策となっている。
中でも、全国で唯一の取り組みとして「避難困難地域完全解消のための対策」がある。堤防や避難路、津波避難タワーなどの整備により、24年度までに全ての津波避難困難地域の解消を目指す政策で、すでに東海・東南海・南海3連動地震の想定においては16地区で解消。南海トラフ巨大地震の想定においても11地区で解消しており、それぞれ残り6地区と50地区となっている。
また、海底における長周期地震動を観測できる「地震・津波観測監視システム(DONET)」を利用した、津波の到達予測システムを全国で初めて構築。中内課長は「どういった形で津波が来るかなど、より精度の高い津波の観測ができる」と話す。
15年には気象庁から「津波の予報業務許可」を取得し、予報業務を開始。県内沿岸部の市町や消防本部に対し、津波予報を提供できるようになったことで、災害時のより迅速な避難につながるという。
全国に先駆けて県は18年2月、復興計画の事前策定に着手。被災した町や地域の復旧・復興が遅れると、企業活動の停止や地域経済の停滞などにつながることから、津波災害が発生した際にも迅速に復興できるよう、沿岸部を中心に県内全域の市町村で取り組んでいる。
自主防災組織率96.1% 本県の危機意識高く
県が「想定外を想定する」ことを意識し、課題に対して対策を取り続ける中、県民の防災意識も高まっている。県によると、昨年4月時点で、県内の自主防災組織の組織率は96・1%。全国平均の84・4%を大きく上回っており、中内課長も「県民の防災意識の高さを物語っている」と話す。
「自分の命を自分で守るために避難が重要」とし、「日頃から逃げるための安全なルートを確保しておいてほしい」と呼び掛ける。安全な避難ルートを確保するため、「住宅の耐震化」「家具などの転倒防止対策」「ブロック塀の安全対策」を推奨。「訓練に参加したり、備蓄を見直したりするなど、日頃から防災意識を高めてほしい」と話す。
また、県では避難に役立つさまざまな機能を搭載した独自の「県防災ナビアプリ」を配信しており、現在約6万200人がダウンロードしている。ARを活用して近くの避難先を検索できる他、グループ登録しておくと、家族の避難場所も確認できる。
中内課長は「県は自助・共助・公助において、国内、世界的に見ても第一線で対策していると自負できる」とし、「もちろん災害がないことを祈るが、発生した場合にもしっかりと対応したい。まずは自分の身は自分で守ることが重要なので、しっかりと避難できるように事前対策を取っていただきたい」と力を込めた。
県の防災・減災の基本的方針・政策
東日本大震災と紀伊半島大水害を教訓にした23の政策
【事前対策】「災害による犠牲者ゼロ」を目指して対策を進める
1.避難困難地域完全解消のための対策(全国で唯一)
2.星1つから3つまでリスク評価をした避難場所を地震津波用と水害用に分けて発表(全国で唯一)
3.DONETを利用した津波の到着予測システムの構築(全国で初)
4.FMラジオとメールを使った防災情報の伝達(全国に先駆け)
5.県独自の気象予測システムの導入及び避難勧告等の判断・伝達モデル基準の策定と市町村への伝達(全国に先駆け、国のモデルに)
6.避難場所とそのルートが検索可能で、家族の避難情報等も分かる県独自の防災ナビアプリ配信(全国で唯一)
7.住宅の耐震助成(全国のトップクラス)
8.大規模ホテル、福祉施設など大規模構築物の耐震助成(県レベルではトップ)
9.ダムの事前放流〔大雨前のダム空容量拡大のため、ダム管理運用見直し〕(全国で初)
10.民間企業を活用した県管理河川における砂利の一般採取促進(全国で最速で着手)
11.速やかなブロック塀対策(全国に先駆けて実施中)
12.停電・通信障害の早期復旧に向けた関西電力やNTT西日本との協定締結(全国に先駆け)、避難所等での電力供給のための自動車メーカー等との協定締結
13.移動式給油スタンド(どこでもスタンド)の配備(都道府県で全国初)
14.防災訓練をショー的なものから実践型に転換(全国で唯一)
【応急・復旧対策】迅速な人命救助とスピード感を持った災害対応
15.災害時緊急機動支援隊の常設化と電子化設備(10人×4班×18市町)(全国で唯一)
16.産業廃棄物企業を動員した災害廃棄物処理支援を事前に準備(全国に先駆け)
17.民間企業の力を借りた災害廃棄物としての流木の迅速処理(全国に先駆け)
18.住家被害認定士の常備化と要員の養成(全国に先駆け)
19.最初から出入りをコントロールする救援物資の集積と配布(全国に先駆け)
20.空き家、旅館ホテルなどを活用したバーチャル避難所及び仮設住宅(全国で初)
21.義援金の早期配布と紀伊半島大水害の災害査定の早期完了(全国トップクラス)
22.紀伊半島大水害の本格復旧の目標設定(全国で唯一)
【復興対策】迅速な復興への対応
23.復興計画の事前策定への着手(全国で唯一)
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