手触り楽しんで 陶芸家の岩本さん個展

ロンドンを拠点に活動する和歌山県海南市下津町出身の陶芸家、岩本幾久子さん(52)の個展が1日、同市下津町下津の市民交流センターで始まった。5日まで。温かさやミクロの世界を表現した作品が並び、岩本さんは「故郷の下津で初めての個展。お話をしにぜひ遊びに来てください」と笑顔で話している。

岩本さんは県立海南高校、帝塚山短期大学工芸美術史コースを卒業。1993年に女流陶芸新人賞、95年に女流陶芸文部大臣奨励賞に輝くなど多数の受賞歴がある。

同短大で織物や染色、陶芸の中から、岩本さんは、「実家がミカン農家だから土に関わることがいいかな」と、母親から後押しもあった陶芸を選択したという。そこで、教授であり後に師匠となる坪井明日香さんと出会い、基本を学び作品づくりを始めた。同短大専攻科へ進み、坪井さんに弟子入り。アシスタントを務めながら作品展やコンテストなどに参加した。

主に信楽の土を使い、興味のあった宇宙やミクロ、マクロの世界から、目に見えない世界を表現する作品を制作。

女流陶芸文部大臣奨励賞を受けた作品は、踊るような指の先と、目には見えない、その中にある手のひら「指掌」を表現した。

「指掌」とは、温かく導くという意味があり、両親やサポートしてくれる人への感謝の気持ちを、温かい手のひらで表現している。

30歳の頃に、坪井さんの勧めでイギリスのロンドンにアート留学。大学院修了後は、フリーランスとしてイギリスで活動を続けている。

同国では、石を砕き土状にした磁器で作品を制作。土よりも硬さを表現できるため、先端が尖ったものや繊細なものなど、ミクロや自然をテーマに創作する。

視覚障害のある人や高齢者が作品を触り、意見交換するデザインプロジェクトに携わったことで、それまでのトゲトゲしたものから手触りの優しい、ぶつぶつとした突起が特徴の作品も手がけるようになった。突起はスポイトのような道具を使い、一つずつ付けているという。岩本さんは「これからも、目に見えないものを作品として残したい」と話している。

 

手のひらの温かさを表現した作品と岩本さん

 


環境問題も意識

子育てが落ち着いたことで積極的に活動しようと、個展の開催を決意。両親や友人、サポートしてくれた人への感謝を込め、まずは下津を開催地に選んだ。

会場には、賞を受けたオブジェやテーブルウェアなど、これまでに作った約70点が並ぶ。

近年は、環境問題を考えた作品にも取り組み、古いものを再利用して作品にするアップサイクルで表現している。

古くなったまな板に、目が無く、とげとげしい体をした魚が横たわる作品は、温暖化や海洋ごみの問題を提起。岩本さんは「環境問題はすぐには変えられない。見る人の人生の一つの点になるような作品をつくりたい」と話す。

昨年、師匠である坪井さんが亡くなり、岩本さんは「今後、坪井さんがグローバルに活動していたことを引き継ぎ、活動の幅を広げていければ」と話す。「SDGsに関して、イギリスでは作家さんの作品を通じ、どんなふうに取り組んでいるのか日本の学生に伝えていければ」と意気込む。来年は和歌山市内での個展も予定している。

今回の個展の会期中は岩本さんが在廊する。作品の購入も可能。午前10時から午後5時(最終日は4時)まで。問い合わせは川乗さん(℡090・7483・0586)。