最盛期迎える「蔵出しみかん」

前号では、酸味が少なく強い甘味が特徴の「津之望(つののぞみ)」を取り上げた。今の時期に出荷の最盛期を迎えているのが、海南市下津町が誇る「蔵出しみかん」。今週はこの地域で受け継がれてきた伝統的な農法について紹介したい。
蔵出しみかんの特徴は、12月中に収穫されたみかんを、1カ月以上かけて、各農家にある土壁の蔵の中で熟成させて出荷するという点。熟成させることで糖度を高める他、収穫時の効率性を高めることや、他の産地が出荷しない時期に高単価で販売できるというメリットがある。
みかんを貯蔵する蔵は、長年、この地域で受け継がれている特有の技術で、畑の土や、近くにある雑木林の竹や木を利用して建設。傾斜地に雑木林を作り、伝統的な石積みの技術で耕作面積を増やすなど、この地域ならではの工夫がされている。
ランドスケープの観点からも、山頂から海に至るまでの急な傾斜地に段々畑のように畑や集落を配するなど、厳しい環境でありながら、先人の知恵により持続可能な農業システムが構成されている。
これらの仕組みが評価され、2019年2月に「下津蔵出しみかんシステム」として日本農業遺産に認定。日本農業遺産とは、社会や環境に適応しながら何世代にもわたり継承されてきた独自性のある伝統的な農林水産業と、それに密接に関わって育まれた地域を、農林水産大臣が認定する制度。県内では他に、有田地域、高野・花園・清水地域が認定されている。
23年1月には、有田地域と一体となった、和歌山県有田・下津地域として、世界農業遺産への申請承認を受け、10月に申請書類を提出。今後、審議が行われるという。
海南市内では蔵出しみかんの販売を知らせるのぼりが多数立てられ、今が最盛期。生産量は約3500㌧で販売は3月まで続く。
(次田尚弘/海南市)