持続可能な柑橘栽培の未来
25週にわたり紹介してきた、県内で収穫されるさまざまな柑橘(かんきつ)。その背景や収穫量の推移、味わい、加工品などを見ると柑橘を取り巻く環境の変化を感じさせられる。
和歌山市で発見された「三宝柑」=写真左=は200年もの歴史をもつ柑橘。藩外へ持ち出すことを禁じた徳川治宝の命から、現在も、出荷される三宝柑のほとんどが県内で栽培されているという事実がある。しかし、栽培効率や消費者に好まれる味に適応しづらく、最盛期に4千㌧あった生産量も現在は5百㌧程度。新しい春柑橘への切り替えで、三宝柑の木が伐採されることも少なくないといい、紀州の伝統を受け継ぐ柑橘の継承に不安が残る。
気候変動に目を向けると、イタリア原産の「ブラッドオレンジ」=写真右=が、近年国内でも栽培されるようになった。国内に持ち込まれた1970年代、日本はイタリアと比べ栽培適温が2℃ほど低く国内での栽培は適さないとされたが、2004年ごろから国内で栽培可能となった。技術の向上や品種改良が背景にあるのかもしれないが、栽培に適した温度を満たすようになったのは、地球温暖化も一つの原因といえよう。
消費者のニーズは一時として同じことはなく常に変化していくものであり、それに合わせて栽培する品種の選択や量を適応させていくのは農業を営む上で必要なこと。しかし、気候変動で思わぬものが栽培できるようになり、その裏で栽培が適さなくなるものもある。
伝統や歴史は理解されつつも効率性から別の品種へ置き換えざるを得ないこともある。
技術の発展や日々の研さんにより新しい品種が生まれ、さまざまな味わいを楽しめることを喜びつつも、さまざまな背景から消えゆくかもしれない品種に目を向け、持続可能な農業の在り方を考えていくことも大切だと思う。(次田尚弘/和歌山市)