和工生が「釘隠し」複製 あしべ屋妹背別荘に
地元の歴史ある建物を元の姿に――。和歌山県立和歌山工業高校(和歌山市西浜)産業デザイン科の3年生らが3Dプリンターで複製した「釘隠し」を24日、同市和歌浦中の「あしべ屋妹背別荘」に贈った。
「あしべ屋」は江戸時代、紀州徳川家初代の頼宣が三断橋のたもとに建てた茶屋が始まり。その後料理旅館を営むようになり、明治時代には、博物学者・南方熊楠がここで旧友の孫文と再会するなど文人墨客も多数訪れる格式ある旅館として栄えた。当時は本館の他に多数の別館があったが、1925年に廃業。現在は妹背山の麓にある妹背別荘だけが残る。
贈ったのは、妹背別荘の座敷に使用されていた釘隠しの複製品13個。釘隠しとは、和室をぐるりと囲む化粧部材の長押(なげし)や扉に打った釘の頭を隠す、建築装飾金具の一つ。妹背別荘の活用に向けて建物の整備を行うにあたり、武蔵野大学建築研究所の客員研究員で妹背別荘館主の西本直子さん(62)が紛失した釘隠しの複製製作を同校に依頼した。同校産業デザイン科3年の生徒12人が県立博物館と連携し、仏像など文化財の複製製作に携わったノウハウを生かし、9月下旬から製作に取り組んできた。
同日、妹背別荘で贈呈式が行われ、複製に携わった生徒らが、完成したプラスチック樹脂製の釘隠しを披露し、西本さんに贈った。
釘隠しは、直径が80㍉。作りが精巧な上、形も複雑で、同校の柏山小桜(こはる)さんは「3Dスキャナーで形を計測するのが非常に難しく、試行錯誤した」と話し、塗装を担当した西端紹(つぐ)さんは「本物に近づけるため、色を何度も重ねて塗った。長く使っていただければ」と笑顔。
西本さんは「地元の若い人が最先端の技術で複製してくれたことを記録に残し、今後訪れた人に建物の当初の姿を伝えたい」と話していた。