膵臓がんの診断向上へ 県立医大で治験開始

和歌山県立医科大学は4日、膵臓(すいぞう)がんの超音波診断に造影剤の使用を組み合わせ、診断率を高めるための臨床試験(治験)を開始したと発表した。全てのがんの中で診断後の5年生存率が最も低い膵臓がんの早期発見、治療につながることが期待される手法で、全国の大学病院など11カ所が共同で実施機関となり、通常診療に活用できる保険適用を目指し、有用性を実証する。

今回の治験は、製薬会社などが行う企業治験ではなく、医師自ら準備から管理まで行う医師主導治験。同医大内科学第二講座の北野雅之教授らが全国の専門医らに呼び掛け、共同実施が実現した。北野教授と同講座の山下泰伸講師、治験に使用する薬剤の提供や研究費用のサポートをするGEヘルスケアファーマ㈱(東京都)の若林正基社長らが4日、同医大で記者会見した。

膵臓がんは、がんの部位別死亡数(19年)で女性の3位、男性の4位と多く、18年の罹患(りかん)数は4万2361人に増加。5年生存率は8・5%(2009~11年)と最も低く、難治として知られる一方、ステージ0での発見なら5年生存率は86%、ステージ1Aなら69%まで大きく上がるため、早期発見が重要となる。

今回の治験では、広く行われている診断法である経腹壁超音波検査(腹部エコー)、超音波内視鏡検査に、同社の造影剤「ペルフルブタン」を導入する。この造影剤は、肝臓がん、乳がんの超音波検査では有用性が実証され、保険適用もされており、研究では膵臓がん検査での有用性も報告されているという。

造影剤を使用すると、超音波検査の画像で、血管や血流がより鮮明に把握できる。膵臓の腫瘍は、がんの場合は血流が少なく、良性の場合は周囲と同様か多いため、従来の超音波検査では悪性・良性の区別がつかなかったものも、画像で診断ができる。

現在、精密な診断に用いられる造影CT、造影MRI検査は、簡便ではないことに加え、腎機能が低下した患者への使用が難しいヨード造影剤を用いること、アレルギー反応などの問題がある。

簡便で患者への負担が小さい超音波検査の診断精度が向上することは大きなメリットであり、造影CTが困難な患者にも精密な検査が可能となる。

治験は9月に開始しており、膵臓に腫瘍がある患者301例に対し、観察期間を含めて来年9月まで行う。内容は、造影腹部エコー検査、造影超音波内視鏡検査、造影CTの三つを30日以内に実施し、造影剤を用いない従来の超音波検査との比較、造影剤を使った超音波検査と造影CT検査との比較、安全性の評価を行う。

北野教授は「(造影超音波検査は)ぜひとも臨床で、通常診療で使う必要があると多くの医師が考え、患者が希望していること。県立医大がリーダーシップをとり、全国の医師、患者、企業のサポートがあって治験にたどり着けた。通常診療に活用できるようにしたい」と意欲を話した。

 

記者会見に出席した北野教授(左から2人目)、若林社長(同3人目)ら