紀州松煙墨を復活 県名匠に堀池さん

伝統ある工芸品や生活用品などの製作技能を保持し、技術文化の向上に功績がある優れた技術者に贈られる2022年度「和歌山県名匠表彰」に、紀州松煙墨の製作を復活させた堀池雅夫さん(71)=田辺市=が選ばれた。31日に県庁で表彰式が行われる。

松煙墨は、松の煤(すす)と膠(にかわ)を合わせて作る墨で、奈良時代には日本で製作されていた。中でも紀州松煙墨は、平安時代、熊野参詣に訪れた上皇に献上された名墨として名高い。

素材となる松の煤作りは山村の貴重な収入であり、紀州の山々にはかつて多くの「煙屋(えんや)」がいたが、昭和30年代になり、製煤業の過酷さや松材の減少、コストの安い鉱油墨の普及により、紀州松煙墨は断絶。これを堀池さんが復活させた。

堀池さんは1951年、静岡県生まれ。35歳の時に田辺市に移住し、妻の実家の製煤業を継いだ。当初は油煙煤を製造していたが、知人から懇願され、松煙墨製作を始めた。

松煤は古来、障子で囲った小部屋に設置した窯で松材を燃やし、障子に付着させた煤を採取してきた。堀池さんは、障子の代わりに金網を用いつつ、他は全て自身の調査で復元した伝統的な製煤方法で製作している。

500㌔の松材を小さな炎で2週間かけて燃やし、採れる煤はわずか10㌔。煤を膠と練り合わせて型に入れ、灰の中で乾燥させて墨に仕上げるまで半年以上を要する。この製煤から松煙墨の製造までの工程を一貫して行う職人は、全国で堀池さんただ一人。

堀池さんの松煙墨は、独特のにじみと黒の色彩が高く評価され、2015年には岐阜県から「清流の国・森の恵み大賞」優秀賞を受賞。さらに、煤に顔料を加えて膠に練り込み、鮮やかな色を付けた墨「彩煙墨」を創案し、淡く繊細な色彩で多くの人々に愛用されている。

伝統的な紀州松煙墨製作の復活はもとより、新たな技術、創案を加えながら未来に残そうと奮闘する堀池さんの功績は多大であり、今回の受賞が決まった。

県名匠表彰は1974年度に始まり、今回が49回目。

県名匠に選ばれた堀池さん(県提供)

県名匠に選ばれた堀池さん(県提供)