きのくに建築賞 特別賞に紀三井寺山麓駅
和歌山県内の優れた建築物を顕彰する「第6回きのくに建築賞」の最終審査が20日、和歌山市吹上の県立近代美術館2階ホールであり、最優秀賞に「新宮市文化複合施設(丹鶴ホール)」が輝いた。審査員特別賞と、オンライン投票の最多得票作品に贈られる、きのくに県民賞には、和歌山市紀三井寺の「紀三井寺ケーブル山麓駅」が選ばれた。
県建築士会などでつくる建築三団体まちづくり協議会(谷岡拓会長)が主催。建築物とそれに携わった人の志に光を当て、和歌山の建築文化の向上に寄与することなどを目的に2016年に創設された。
12年以降に完成した県内の建築物が対象で、県内から23件の応募があった。建築史家の倉方俊輔さん、同市出身の建築家・広谷純弘さんら5人が審査員を務め、書類選考された5件を事前に現地で審査。この日の最終審査では設計者らがプレゼンテーションし、その様子はライブ配信された。
最優秀賞に選ばれた丹鶴ホールは新宮城跡や熊野川を臨む場所に21年10月に開館。1階に文化ホール、最上階の4階に図書館を配置している。ホールは熊野の木立をイメージしたような空間で、図書館からは市街を一望できる。地域の景観との調和が高く評価され、審査員から「これからの公共建築の在り方を考える上で、完成度の高い答えを出している」「地方都市での建築の力を強く感じた」などの声があった。
紀三井寺ケーブル山麓駅は、参拝者のバリアフリー化や津波避難場所としての活用を想定し、ケーブルカーの設置に伴い建設したもの。楼門脇にあり、木格子の大屋根が特徴。紀州材を使用し、重ね梁で小さな製材を組み合わせ、卍(まんじ)型に4段重ねて接合している。歴史的景観と近代建築が融合し、これからの寺の役割を明確にした上での建物であることが決め手となり、審査員からは「たとえ小さな建築でも、施主の思いをくみ取り、時間をかけ、熱意をこめて造られたことが伝わってきた」などの意見があった。
プレゼンテーションにも加わり、審査を見守った前田泰道貫主は「ケーブルカー設置という斬新な試みは、お寺としても勇気が要った。まちのシンボル的な建築として、多くの方に愛していただければ」と話した。
事前審査で、紀州材賞には和歌山城ホール(和歌山市)が選ばれた。
審査結果は次の通り(順に作品名、建築主、設計者、施工者)。
【最優秀賞・県知事賞】新宮市文化複合施設(丹鶴ホール)、田岡実千年新宮市長、山下設計・金嶋設計共同企業体 安田俊也、篠﨑亮平、笹岡歩、内村梓、金嶋正人、村本・三和特定建設工事共同企業体
【優秀賞】有田市民水泳場「えみくるARIDA」、望月良男有田市長、綜企画・アトリエ・アースワーク設計共同体 橋本敏
【審査員特別賞・きのくに県民賞】紀三井寺ケーブル山麓駅、紀三井寺前田泰道貫主、清水建設㈱関西支店一級建築士事務所 加地則之、同支店和歌山営業所
【佳作】太田の住宅、個人、井戸健治建築研究所 井戸健次、国土建設㈱▽地域環境の形成を意図した福祉施設、㈱MJT、本多環境・建築設計事務所 上田寛彬、本多友常、三友工業㈱
【第6回きのくに建築賞紀州材賞】和歌山城ホール、尾花正啓和歌山市長、教育施設・キューブ特定設計業務共同体、梓設計・環境建築計画共同企業体、奥村・小池・宮井特定建設工事共同企業体