ススキで地域生態系保全 和市でシンポジウム
わかやま地域植物緑化研究会によるシンポジウム「和歌山からみどりの地産地消を」が10日、和歌山市小松原通の県民文化会館で開かれた。防災、公共工事、環境分野、農林業、地域再生などに携わる約100人が参加。自然回帰緑化と地域社会の関わりについて考えを深めた。
同会は山を掘削してできた斜面の緑化に、外国産種子を使わず地元の植物の種子で地域の緑化を進めようと、緑化工事に関わる企業や技術者、和歌山大学の研究者や学生らが集結し、2013年から活動している。
緑化工事で裸になった斜面には工法による自然回帰が行われるが、一般的には緑を復元するため、繁殖力が旺盛で安価な外国産の牧草が導入されている。しかしそれはニホンジカが好む餌植物であることから、餌場となり斜面崩壊の危険性につながるという。
同会では解決法として、県内に自生する在来種の種子を用いることが、地域の生態系を守りニホンジカの対策になると考え、地元のススキやチカラシバの種を採り、効率的な採取方法や安定的な発芽、定着するための研究を行っている。
第1部では趣味の昆虫採集を通じ地域生態系に関する造詣が深く、自然豊かな県土づくりを指揮した仁坂吉伸前知事が「和歌山の自然と外来種」をテーマに基調講演を行った。
「自然を守るときに一番大事なことは循環の力。回復できるなら木を1本、2本切っても、シカがそこにいても悪くない。でも自然の回復力が失われるような破壊はいけない」と伝え、昆虫採集を通じて体験した自然の変化や、知事時代のエピソード、県内の自然や生物の多様性などについて語った。
第2部のシンポジウムでは同会のメンバーで和歌山大学食農総合研究教育センター客員教授の湯崎真梨子さんがコーディネーターを務め、パネリストとして同会会長で㈱タニガキ建工の谷垣和伸代表取締役、和歌山大学システム工学部の中島敦司教授、斜面緑化コンサルタントSPTEC・YAMADAの山田守代表、仁坂前知事が、同研究会の研究成果を踏まえて議論した。
山田代表は、高野山スキー場や生石高原にはシカがたくさんいるが、ススキは大きく育ち、黒沢牧場の牛の放牧地にはチカラシバが群生していることを紹介。その種を採ればシカに対抗できるだろうと考え、2013年からススキとチカラシバの種子採取、生産を行ってきたことを報告し、「実際に植えた実験で充分に可能性があることが確認できている」と発表。
種子の発芽率を上げる研究を行っている中島教授は「7~8割発芽できる方法論は分かった。あとは安定的に早く発芽させる方法が次の課題」と報告した。
仁坂前知事から「種を手で採取していると聞いたが、機械化はできないのか?」と問われ、現在その取り組みも進められていることなど、活発な意見交換が行われた。