地域個体群の可能性 熊野灘のメバル論文に

和歌山県東南部に広がる熊野灘周辺に生息しているメバルがこの地域特有の個体群である可能性を示す論文が、生物学と医学の研究を取り扱うオープンアクセスジャーナルに掲載された。広島大学大学院統合生命科学研究科教授の海野徹也さん(60)と、同科助教の河合賢太郎さん(29)の研究室の共同研究で、海野さんの研究室のディエゴ・デヴィレさん(31)=ペルー=が主になって執筆した。熊野灘のメバルに言及した論文は初めてのもの。

「メバル類」はこれまで、アカメバル、シロメバル、クロメバルの3種がいると考えられていたが、釣り人の間では特に熊野灘方面で「変わったメバルが釣れる」とうわさされていた。

日本全土でメバル類の調査をしていた河合さんが、県内在住の釣り人のブログ記事で和歌山では3種に加えて熊野エリアでそのメバルが釣れるということを知り、2年前から和歌山でサンプルを集め、研究していた。

このうち、熊野灘で集められたサンプルについて、視覚に関わる遺伝子が他の3種とは違い、光の少ないより薄暗い場所に適応している可能性があるという。さらにこれらはアカメバルとシロメバルのハイブリッド(熊野型)であることも判明した。

現在はまだサンプル数が少なく、熊野型のメバル全てがアカとシロのハイブリッドなのかは不明。この地域特有の個体群なのか断定はできないが、そうであった場合、成長速度や繁殖、回遊などの生態も他の3種と異なる可能性があるため、継続して調査していくという。

河合さんは「和歌山の海は、さまざまな表情がある魅力的な海だ」といい、地理的には、「瀬戸内海の影響が強い和歌山湾から、黒潮の影響を強く受ける南紀・熊野エリアまで、実にバリエーション豊かな環境がある。熊野型メバルの存在が偶然なのか環境適応の結果なのか、そのどちらもなのかは、まだ分からないが、実際の海を知ると、和歌山の海だからこそ特別に適応したのが熊野型メバルだとしてもおかしくない」と話している。

 

熊野灘で釣れたメバル。赤っぽい体色が特徴で、大型の個体が多いため、釣り人の間では知られた存在だった(和歌山市の釣り人提供)