生きた記憶をたずねて 細畠清一さんの書道回顧展

清一さんの作品とともに美鶴さん
清一さんの作品とともに美鶴さん

和歌山の書道文化の発展に尽くし、2022年に92歳で亡くなった和歌山市の細畠清一(静峰)さんの書作品を集めた回顧展が3日から6日まで、西汀丁の県書道資料館で開かれる。昭和100年、戦後80年を迎える節目に「たくさんの方と記憶を共有し、思いをつないでいきたい」と長女の美鶴さんが企画した。

細畠さんは書道家の故・山本興石氏や天石東村氏に師事。和歌山家庭裁判所に勤める傍ら研さんを重ね、日展で連続入選を果たした。市内で複数の教室を開き、後進や書道家を育成。書の魅力を広め、長きにわたり県展や市展の書の審査員を務めるなど、和歌山の書道界に重きをなした。

今展は「壽無涯(じゅむがい)~昭和100年・戦後80年に生きた記憶を訪ねて」と題して開催。幼少期から晩年まで、永年にわたる書業の中で生み出した清一さんの創作の軌跡を紹介する。「壽無涯」は、2008年に清一さんが書にした言葉でもあり、「壽(いのち)」に「涯(かぎり)なし」の意味合いがある。

昨年初めて回顧展を開き、約400人が来場。美鶴さんは、知らなかった父の姿を来場者から教わるにつけ、「父の思いは筆の中にある。人の魂や気持ちは、時代を超えて巡っていく」との思いを強くしたという。

美鶴さんは展覧会後、全国誌「書道」で1961年に清一さんが「新鋭・少壮百人選」として掲載されているのを発見。また、自宅の天袋に仕舞われていた大作の包みを見つけた。「習字に対する祈りに近いものを感じるような資料も目にし、父が記した文章からは、習字に手を抜かない姿勢が伝わってくるようでした」と話す。回顧展の「つづき」として、新たな作品を中心に内容を充実させて公開しようと準備を進めてきた。

会場内では細畠さんが撮影した8ミリフィルムを上映。初日には、未開封だった作品を来場者と開封する。

細畠さんは7月9日の和歌山大空襲を経験し、二十歳の姉を亡くしている。細畠さんの誕生日である5日には、和歌山大学観光学部の木川研究室が制作し、生前の細畠さんの和歌山大空襲の証言をまとめた映像を上映(午前11時~)。細畠さんの同級生で同僚だった中村公一さんが和歌山大空襲や清一さんについて語る企画の他、清一さんの空襲体験を美鶴さんが言葉にし、福山ひでみさんが読み上げる朗読もある。

午前10時から午後5時(最終日は4時半)まで。問い合わせは美鶴さん(℡090・3403・0856)。