和歌山市の岡本和宜さん 『丹羽文雄書誌』出版
日本一の多作家と呼ばれ、 「鮎」 「厭がらせの年齢」 「日々の背信」 「親鸞」 「蓮如」 などの名作を残し、 生きた昭和文壇史でもあった文学者・丹羽文雄 (1904~2005) (昭和52年文化勲章受章)。 その膨大な作品群を整理して全貌を明らかにする基礎資料 『丹羽文雄書誌』 を、 和歌山市片岡町の岡本和宜さん (37) が和泉書院から出版した。 岡本さんは 「丹羽研究のきっかけになり、 再評価が進むことを期待しています」 と話している。
岡本さんは丹羽文雄を 「太宰治が嫉妬したほどの作家」 と話す。 さらに芥川賞や野間文芸賞、 吉川英治賞の選考委員を長年務め、 雑誌 『文学者』 を自費で出版。 才能ある若い作家を多数世に出すなど 「活動自体がある種の近代文学史だった」 と語る。
しかし出版本だけで約600冊あり、 発表作品総数は膨大。 全集28巻には全体の3分の1ほどしか載っておらず、 原稿用紙は13万枚に及ぶ。 そのせいもあって研究者は少なく、 精緻な書誌・年譜が待ち望まれていた。
岡本さんは約15年かけて全国の古書店などで資料を収集し、 丹羽の故郷三重県四日市市にある丹羽文雄記念室はじめ各地を調査した。 小林秀雄や川端康成のために丹羽が推薦文を書いた本の 「帯」 など、 興味深い発見もあったという。
書誌には、 著作目録や伝記年譜はもちろん、 新聞掲載の時評、 演劇評、 雑誌掲載論文、 映画やテレビドラマの原作作品、 出演作品、 企画作品、 作詞したドラマ主題歌のレコードなども網羅。 「恋文」 という作品を女優田中絹代が監督として映画化していることも分かる。
丹羽記念室がある四日市市立博物館の秦昌弘学芸員は 「(同書誌により) 丹羽文学の全貌を我々は初めて知り得ることが可能となった。 丹羽文学再評価の到来を予感させる」 と賞賛。
作家の河野多恵子さんは 「『文藝事典』 と 『書誌』 くらい、 その作家の愛読者、 評論家、 研究者にとって、 ありがたいものはない (略) 文豪丹羽先生は常に〈精神的種族の保存のために〉書いてこられた眞実の文學者である (この2冊の) 上梓を 『そうか、 僕のが出るのか。 大仕事だったろうに、 良く出してくれたな』 とあの世でお喜びのお声が聞こえてくるようである」 と記している。
【岡本和宜 (かずのり)】 皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。 現在、 近畿大学付属和歌山中学校・高等学校講師。 共著に 『伊勢志摩と近代文学』 『紀伊半島近代文学事典』 『丹羽文雄と田村泰次郎』 『有吉佐和子の世界』、 論文に 「川端康成 「十六歳の日記」 論」 他。
【丹羽文雄書誌】近代文学書誌体系⑥ 平成25年3月15日発行 著者・岡本和宜 発行所・和泉書院 1135ページ 定価・2万3100円 (『丹羽文雄文藝事典』 も、 秦昌弘・半田美永編著で同書院から同時出版された)