伊勢路旅⑩三重県尾鷲市(1)

今週は熊野市の北隣・尾鷲(おわせ)市を紹介したい。

尾鷲市は東紀州地域のほぼ中央に位置する人口約1万7000人の市。西側に大台ケ原山系を背負い、東側には熊野灘に面する美しいリアス式海岸が広がる。熊野灘から流れ込む暖かく湿った空気が山々にぶつかり、南東側斜面に位置する同市は雨雲が発達しやすい地形となっており、年間降水量は4000㍉に迫る。和歌山市の年間降水量は約1300㍉。比べると降水量の多さが歴然だ。

市の面積の約90%が山林。急斜面と痩せた土壌という、木が生育するには厳しい環境であることが幸いし、年月をかけて育まれたヒノキは年輪が緻密で光沢があり「尾鷲ヒノキ」のブランドで知られている。

江戸時代に紀州藩がこの地域における林業を奨励し、建築に用いられる「柱材」を熊野灘から江戸へ運んだのが発展のきっかけ。木にはカジノールという成分が多く含まれ、耐久性に加え抗菌性にも優れていることから、建材の他にも、まな板や、さじなどの日用品にも加工されている。

市内にはそれらの日用品を製造・販売する店があり、お土産用のさまざまなアイテムが並ぶ。ヒノキのよい香りに包まれながら商品を手に取り眺めていると、木を身近に感じ、どこか心が和らぐ気がするのは筆者だけだろうか。

訪れた店でユニークな商品を見つけた。尾鷲ヒノキで作られた郵便はがき。重量の関係上82円切手が必要となるが、普通郵便で取り扱い可能。表面は非常に滑らかでつやがあり、ほのかに香りもする。旅の思い出を、送り先の家族や知人へ、絵はがきでは表現できない触覚・嗅覚を使って共有できるお薦め商品。

この地域ならではの木の魅力にふれる旅をしてみては。

「尾鷲ヒノキ」で作られた郵便はがき

「尾鷲ヒノキ」で作られた郵便はがき

(次田尚弘/尾鷲市)