伊勢路旅⑨三重県熊野市(5)
前号では、三重県熊野市の世界遺産・獅子岩と、縁の深い大馬神社について紹介した。今週は獅子岩と共に、国の名称と世界遺産に登録されている鬼ヶ城(おにがじょう)を紹介したい。
鬼ヶ城は獅子岩から北東へ約2㌔に位置する景勝地。伊勢志摩から続くリアス式海岸の南端にあたり、急激な地面の隆起と熊野灘の荒波による浸食で、大小さまざまな海蝕洞が約1㌔にわたって広がる巨大な凝灰岩。海蝕洞の上部は鳥のクチバシのように先端が尖り、内部は蜂の巣のような無数の穴が並ぶ。
鬼ヶ城の由来は、平安時代にさかのぼる。武官であった坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)が、この地域で鬼と恐れられていた海賊の征伐に訪れた。海賊(鬼)の隠れ家が鬼ヶ城であると知った坂上田村麻呂だが、熊野灘の荒波が行く手を阻み、立ち寄ることはできなかったという。
しかし、鬼ヶ城の沖、約1・5㌔に浮かぶ「魔見ヶ島(まみるがじま)」に童子が現れ舞を踊り、それを見ようと岩戸を開けた海賊の頭(鬼神)に田村麻呂が矢を放ち、一度でしとめたという伝説がある。大馬神社(前号で紹介)に討ち取った鬼の首を埋めたとされ、年に一度、同社では平安を祈る「弓引き神事」が行われている。
また、西暦1400年ごろ、この地を治めた熊野有馬氏の一族が、鬼ヶ城一体の山頂に城を建てており、その山城を鬼ヶ城としていた。現在も城跡が残り、ハイキングコースが整備されており、鬼の見晴台といわれる展望台からは熊野灘が一望できる。これからの時季、一帯では、4種類の桜が次々に開花。訪れる者を魅了してくれる。
広い駐車スペースがあり食事などを楽しめる鬼ヶ城センターが観光の拠点。桜の見頃にぜひ訪れてみては。
(次田尚弘/熊野市)