遺句集「花衣」発刊 歌舞伎研究の的場さん

 歌舞伎の研究に情熱をささげた歌舞伎学会会員で、平成23年に74歳で亡くなった和歌山市の的場有紀さんの遺句集『花衣』が刊行された。的場さんの遺言により、交流のあった俳人協会会員で同市の須田光成さん(73)らの手によって完成。須田さんは「思いを形にでき、ほっとしています。的場さんと親交のあった方をはじめ、俳句や歌舞伎のお好きな方に手に取っていただきたい」と話している。

 的場さんは昭和12年、清水町に生まれた。立命館大学文学部に入学したが、歌舞伎の世界をより深く知りたいと、中退して上京。歌舞伎研究に情熱を注ぎ、全国各地の巡業にも足を運ぶなど、かなり熱心な“追っかけ”だったという。

 平成2年には帰郷し、7年から16年にかけて、本紙で歌舞伎に関する連載を担当した。歌舞伎研究の傍ら10年にわたって作句にいそしみ、本紙にも多数投句。亡くなる1年ほど前からは須田さんの教室に通っていた。

 生前、的場さんは、歌舞伎や演劇に関する本の寄贈先を案じ、橋本市の司法書士・和田佳人さん(40)に遺言書の作成を依頼。特に俳句作品についてはこれまで本にしたことがなく、発刊を強く希望していたという。

 しかし所有書物のリスト作成も半ば、的場さんは平成23年に永眠。和田さんが遺言執行をすることになった。残された文書には「句集にする際は、ぜひ須田さんにお願いしたい」との強い願いがつづられていたという。

 的場さん愛用の5冊の手帳には、約5000句がしたためられ、和田さんから相談を受けた須田さんは「これほどたくさんの句を残しているとは思わず、びっくりしました」と話す。句集発行への協力を快諾し、須田さんが350句を選出した。

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初芝居妬く幸せを知りにけり

露店市売る火鉢にも火を熾し

駅長と呼ばるる猫も恋の猫

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 須田さんは「文学的に長けた方で、普通は目につかないようなものへの着眼点がありました。貴志川線のたま駅長を『恋の猫』と表現して、動物にも同情しているんですから」と話す。

 歌舞伎にちなんだ句が多く、須田さんもまた的場さんを思い、次のような追悼句を寄せている。

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歌舞伎座の方が恵方と有紀言ふ

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 跋文では、和歌山文化協会事務局長の桑島啓司さんも句評。遺言を執行した和田さんは「仕事上、普段は財産に関する内容がほとんどという中、今回は思いを残すことの大切さ、素晴らしさを感じさせられました。的場さんの作品がたくさんの方の目にふれるよう願っています」と話している。
 句集についての問い合わせは編集部文化担当(℡073・433・6114)まで。

 的場さんの遺句集『花衣』を抽選で読者5人にプレゼント。ただし本をわかやま新報本社まで取りに来られる人に限ります。希望者は、はがきに①郵便番号②住所③名前④電話番号⑤きょうの紙面で興味のあった記事⑥「的場さんの句集希望」と記入し、〒640―8043、和歌山市福町49「わかやま新報」編集部まで。21日締め切り(消印有効)。

的場有紀さん

的場有紀さん