相続・資産管理の新対策 注目の家族信託
高齢化社会が進展し、相続に関するさまざまな問題が顕在化する中、遺言や成年後見制度の課題に有効に対処できる新たな相続・資産管理対策として「家族信託」が注目されている。認知症の発症に備え事前に信頼できる家族に財産管理と承継を託せる制度であり、東京などの大都市部では利用が広がりつつあるが、県内での認知度はまだ低いのが現状。一般社団法人家族信託普及協会会員で家族信託専門士として制度の活用を呼び掛けている、つなぐ司法書士法人の西本晋也さん(34)に話を聞いた。
家族信託は、信託銀行や信託会社に手数料を支払って行うのではなく、文字通り信頼できる家族に財産を託し、管理と資産承継を任せられる制度。平成19年に信託法が大幅に改正され、信託銀行などの商事信託が中心だった信託が、一般家庭でも使いやすくなったことにより実現した。
親が認知症になると資産は凍結され、売却などの有効活用は困難になる。従来、こうした場面で利用される成年後見制度は、判断能力の不十分な人を保護し、支援する制度であるが、親が認知症になってから発効するため、親が資産の管理や処分をどうしてほしかったかという希望はほとんど反映できない。家族信託なら元気なうちに信託契約を行い、親の希望を反映する形で発効することができる。
また、家族信託は「老後を快適に過ごすための手伝い」という観点が生まれるため、相続に関する話題を敬遠する親世代にも、子どもから提案がしやすいという。
さらに、成年後見制度は財産を管理、維持することに重点が置かれているため、介護費用捻出のための自宅売却などが容易でないなどの制度の使い勝手の悪さが表面化してきている。
これに対し、自宅の所有者である母親を委託者、長男を受託者、受益者を母親とする「家族信託」を母親が元気なうちに長男と契約した場合、母親が介護施設に入所した後に判断能力が低下しても、長男の判断で自宅を売却することなどで、施設費用を捻出できる。
さらに、遺言では財産の相続先は次の代までしか決められないが、家族信託を活用すれば、仮に一次相続者が亡くなった場合の二次、三次の財産の承継先も指定することができ、「円満な相続の切り札になる」と西本さんは話す。
ただし、適切な受託者のなり手がいない家では家族信託の利用は難しく、また、事前に家族間で十分な話し合いがなされないと、受託者ときょうだい間に確執が生まれる可能性もあるなど、必ずしも全ての家庭で利用できるわけでもなく、かつ、正しく進める必要がある。
西本さんは「決して万能ではないが、誰でも気軽に利用でき、家庭裁判所や信託銀行の介在なく、家族間の契約で作れる自由な制度なので、一人でも多くの人に知ってもらいたい」と力を込める。