備長炭工芸品を世界に発信 セレネ岡本さん
和歌山県の特産品として知られる紀州備長炭。燃料としての利用が一般的だが、㈲セレネ=岩出市中島=の岡本泰宏代表取締役(57)は食品やインテリア雑貨としての用途に目を付け、商品開発に取り組んできた。
もとは健康食品を扱う会社。あるとき取引先から「備長炭はないか」と問い合わせを受けたのがきっかけで、炭のことを調べ始めた。
大小無数の穴がある備長炭は、空気中の臭いや不純物を吸着する消臭・浄化作用がある。水に入れておけば、水道水のカルキ臭が抜けるとともに炭のミネラル分が溶け出し、「ミネラルウォーター」を作ることができる。燃料としても優れているが、他にもさまざまな効用があることが分かった。
高知や宮崎でも生産されているが、もとは高野山を開創した弘法大師が中国から紀州に伝えたもの。田辺市が備長炭発祥の地であることも知り驚いた。原料のウバメガシは県木。「県で生まれ育った自分も知らなかった。他の人も推して知るべしだなと。こんな素晴らしいものが和歌山にあることを多くの人に知ってほしい」と強く思った。
ことし1月には、フランスのパリで開かれた世界最大級の展示会「メゾン・エ・オブジェ」に初出展。台湾や香港などアジアでの展示会は経験があったが、「ヨーロッパでの反応を見たかった」という。
出品したのは、美しいカッティングを施した大理石の土台に、手作業で薄く加工した備長炭を飾るオブジェ。ヨーロッパでは、硬水をまろやかにするために炭を利用する人は多く、なじみがある。繰り返し使う炭を立てて乾かす間も、部屋のオブジェとして楽しんでほしいと考案した「実用性と美しさ」を備えた商品だ。ブースには連日、多くのバイヤーが訪れたといい、「予想以上の評価を頂けた」と自信を得て帰国した。
パリに続き、今月は東京でのショーも控えている。オブジェとともに備長炭のスプーンやフォークといったカトラリーも出品する予定で、「工芸品としての備長炭の新たな魅力を積極的に発信していきたい」と意欲を見せる。
20年前、みなべ町の炭焼き窯を訪ね歩いた時に初めて見た窯出しの炎の色が忘れられない。「本当に美しかった」。熟練の職人が丹念に仕上げる備長炭は鉄鋼並みの強度を持ち、切断面は艶やかに黒光りする。「黒いダイヤモンド」の可能性を探る日々は続く。