家康紀行(54)蒸気機関車を観光資源に

前号では、日本三大急流の一つとされる富士川と、その上流にある、徳川頼宣公の母・養珠院の墓所を取り上げた。今週は舞台を西へ移し、静岡県内を流れる一級河川・大井川と蒸気機関車が走るローカル線を紹介したい。
大井川は富士川から西へ約60㌔に位置する。南アルプスの南に位置する間ノ岳(あいのだけ)を水源とする延長168㌔の河川。
大井川に沿うようにして走るローカル線の大井川鐵道は近年、蒸気機関車を用いた観光客の誘客とまちおこしを進めている。大井川鐵道は静岡県島田市の金谷(かなや)駅と川根本町の千頭(せんず)駅を結ぶ大井川本線(39・5㌔)と、千頭駅と静岡市葵区の井川駅を結ぶ井川線(25・5㌔)を有するローカル線。
ここに動態保存された蒸気機関車(SL)が4両在籍し、日常的に営業運転を行っている。2014年からは幼児に人気の「きかんしゃトーマス」の意匠をまとったトーマス号を期間限定で運行するなど、ユニークな企画で人気を博している。車窓に広がる雄大な大井川と、茶畑などの自然を眺めながらの旅は格別。古き良き日本の原風景から懐かしさや旅情が込み上げてくる。
昨今のSLブームにより、勇壮な姿や客車に揺られる旅情、製造当時の技術の高さ、沿線の魅力を見直す機会が増えてきた。今や蒸気機関車が走る街は多くなく、その珍しさや魅力にふれようと全国各地から足を運ぶ乗客も少なくない。
関西では京都鉄道博物館に加え、昨夏から和歌山県有田川町の有田川鉄道公園でも乗車体験ができるようになった。SLが街に溶け込むことで、その街の潜在的な古き良き魅力を再興させることができると思う。SLが全国各地の街を巡り、それぞれの地域の魅力を引き出してほしい。  (次田尚弘/島田市)