日本農業遺産認定目指し 下津蔵出しみかん視察
和歌山県海南市下津町の地域農業ブランド「下津蔵出しみかん」の栽培システムを「日本農業遺産」にと、認定を目指し申請を進める取り組みが活発化している。ことし6月、関係機関へ提出した申請書類が一次審査を通過したことを受け、14日、世界農業遺産等専門家会議委員を務める大学教授や、農林水産省職員らが同町を訪れ、ミカンの貯蔵庫などを巡る現地調査が行われた。
「日本農業遺産」は2016年に創設。2年に1度申請でき、今回は15府県20地域から、8県9地域が一次審査を通過している。認定は、独自の農業システムを継承する地域での機運醸成や、特産品の販路拡大などへの効果が期待されている。
下津地域は急傾斜地で降雨が少なく、稲作や畑作が困難な土壌。住民は傾斜と土壌条件を生かしたミカン栽培に約400年にわたって取り組み、暮らしを支えてきた。山頂や崩れやすい急傾斜地には雑木林やため池を造成し、その下に石垣の段々畑を築いてミカンを栽培。災害耐性にも配慮し、木造土壁の貯蔵庫でミカンを自然熟成させ、付加価値を高める技術も培ってきた。
調査に訪れたのは、同会議委員の委員長で東京大学国際高等研究所サステイナビリティ学連携研究機構機構長の武内和彦特任教授(67)と、一般社団法人ロハス・ビジネス・アライアンスの大和田順子共同代表。同市や県、農業・商工関係者らで構成する認定を目指す推進協議会(神出政巳会長)のメンバーがシステムを説明し、質問に応じた。
一行が視察したのは、同町がミカン栽培発祥の地として築いてきた独自文化の資料が残る橘本神社や、生物多様性のみられる山頂の雑木林、ため池による水不足解消の有効性がうかがえる福勝寺の滝の景観などで、武内教授らは熱心に質問をしながら視察ポイントを巡った。
橘本神社に残る、世界的柑橘分類学者田中長三郎氏がスケッチブックに記したミカン類の観察記録に「西洋では修道院がワインの醸造技術の発展に寄与していることから、神社とかんきつ栽培の密接な関係性をPRすると欧米諸国の理解が得られやすいのではないか」などと指摘。
他にも、二次審査における有効なPR法についてアドバイスし「この地から、ミカン農業の文化が全国へ展開していったのだ、との広い視野を持ったストーリー性を強調し、発表すると良いのでは」などと話した。
同協議会の次本圭吾副委員長は「視察コースはシステムをよく理解していただける箇所を選定した。若手農業者と共に、システムの継承に取り組んでいきたい」と話した。
認定申請は、来年1月に二次審査が行われ、2月に結果が発表される。県内では「みなべ・田辺の梅システム」が、日本農業遺産認定制度の創設前に世界農業遺産に認定されている。