紀州徳川家伝来の名品 和市立博で特別展

紀州徳川家15代・徳川頼倫(よりみち)が創設した、日本初の私設図書館「南葵(なんき)文庫」の公開110年を記念した特別展「お殿様の宝箱 南葵文庫と紀州徳川家伝来の美術」が21日まで、和歌山市立博物館(湊本町)で開かれている。南葵文庫関連資料や、散逸してしまった紀州家伝来の美術品約300点を展示。「紀州へは約100年ぶりの里帰り」という資料も多数公開され、同館では「和歌山のアイデンティティーを問うような展覧会。貴重な美術品を地元の人にぜひ見てもらいたい」と呼び掛けている。

南葵文庫は1898年、頼倫が英国留学と欧州視察の帰国後に現在の東京都港区に設立し10年後に公開。蔵書5万冊を超えたが、関東大震災などの影響で公開は15年ほどだった。

展示資料のうち、江戸幕府15代将軍・慶喜(よしのぶ)が頼倫に贈った直筆の扁額「南葵文庫」は、南葵文庫の閲覧室に掲げられていたもの。1924年に紀州家から東京大学付属図書館に寄贈され、寄贈後の外部への公開は初となる。

徳川家伝来品は、収納箱や袋などの付属品も併せて展示。「南紀徳川家」と赤いラベルが貼られ、珍重されてきたことが伝わる。

中国の画僧が描いた掛け軸「老子図」は、足利義満から徳川家康を経て、紀州家に伝来。16代頼貞(よりさだ)が財政立て直しのために開いた売立(オークション)で、11万9000円(現在の価格で4億8000万円)で落札された。

その他、音楽に造詣の深かった頼貞が収集したベートーべンの自筆の楽譜、紀州家10代藩主・治宝(はるとみ)が収集した、笙(しょう)や琵琶などの楽器類も並ぶ。

頼倫・頼貞とも、図書館で展覧会や講演会を積極的に開くなど、2人の思いは今日のミュージアム事業にもつながるという。また、頼倫は「史蹟名勝天然紀念物保存法」の制定に貢献するなど文化財保護運動を推進。近藤壮館長は「南葵文庫はなくなり、伝来品も全国に散逸してしまいましたが、2人の志は今も息づいています。文化財や美術品を守ろうという思いは、紀州から全国に発信されたことを知ってほしい」と話している。

一般・大学生500円、高校生以下無料。20日午後2時から同館で、近藤館長による講演会「あの名品この名品―実は紀州徳川家の伝来だった!」が開かれる。申し込み不要。

問い合わせは同館(℡073・423・0003)。

徳川慶喜直筆の幅約3㍍の扁額も展示されている

徳川慶喜直筆の幅約3㍍の扁額も展示されている